東大,深紫外レーザーで超伝導ギャップ構造を解明

東京大学の研究グループは,「非従来型超伝導体」の1つとして最近注目を集めている「カゴメ格子」を持つ超伝導体において,その超伝導メカニズムを解明するための重要な手掛かりとなる「超伝導ギャップ構造」を明らかにした(ニュースリリース)。

非従来型超伝導体であるカゴメ格子を持つ超伝導体で,今回研究対象となった物質であるCsV3Sb5は絶対温度約93度で,物質中の電子の電荷密度が周期的に変調する「電荷密度波転移」と呼ばれる相転移を示し,約3度で超伝導を示す。

さらに,電荷密度波転移に伴い時間反転対称性の破れが生じている証拠が得られていることから,超伝導状態においても時間反転対称性の破れが生じている可能性があることで注目を集めていた。しかしながら,超伝導を示す温度が低いことから,その超伝導状態の全容を解明することは困難だった。

研究グループは,CsV3Sb5におけるバナジウム(V)を少量ニオブ(Nb)やタンタル(Ta)で置換すると超伝導転移温度が上がることに着目。さらに,バナジウムの7%をニオブで置換すると超伝導転移温度が5度程度に上がるが電荷密度波転移は残るのに対し,バナジウムの14%をタンタルで置換すると超伝導転移温度は同程度上がるが電荷密度波転移が無くなる。

したがって,両者の超伝導状態の詳細を調べることで,電荷密度波転移と超伝導の関係について理解できることが期待される。また,東京大学が開発した,世界最高性能を誇る「極低温超高分解能レーザー角度分解光電子分光装置」に,オキサイドが開発した「深紫外連続波レーザー」を導入することにより,これら2種類の試料の超伝導状態をより高精細に調べることを可能にした。

その結果,世界で初めてカゴメ格子を持つ超伝導体の「超伝導ギャップ構造」を高精細に測定することに成功。両試料ともに超伝導状態における電子対のペアリングの強さを示す「超伝導ギャップ」の大きさが,電子の軌道や運動方向に依らないことを明らかにした。

さらに,電荷密度波転移が無くなったTa置換試料において,超伝導状態において時間反転対称性が破られていることを示唆する結果も得ており,電荷密度波転移の有無に関係なく,これらのカゴメ格子を持つ超伝導体においては電子のペアが右回りもしくは左回りに回ることで時間反転対称性の破れが生じる「カイラル超伝導」という特異な超伝導状態が実現している可能性があることを明らかにした。

研究グループは,今回の「深紫外連続波レーザー」により,今後もさまざまな超伝導体における超伝導状態の詳細が明らかにされるとともに,これまでに無い超伝導のメカニズムの発見が期待されるとしている。

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