東京大学の研究グループは,3Dレーザースキャナーにより,タリーモンスターの化石計153点の表面形状の3Dデータを収集し,同じ地層から産出するさまざまな動物化石との比較解析を行なった。また,タリーモンスターの吻部にある歯のような構造をX線マイクロCTで撮影し,その3D形状を詳細に明らかにした(ニュースリリース)。
タリーモンスターは,米イリノイ州の石炭紀の地層から産出するメゾンクリーク生物群のみに見られる奇妙な姿の古生物(動物)。長い眼柄と,歯のような構造を持つ顎状の器官が特徴的で,他のどの動物にも似ていない不思議な形態をしている。
そのため,1966年に最初に報告されて以来,様々な種と近縁である可能性が指摘されてきたが,いずれの説も決定的な証拠に欠けていた。
近年,タリーモンスターがヤツメウナギに近い脊椎動物だという説が提唱されている。この説の根拠として,タリーモンスターが脊索・鰓孔・筋節・他の脊椎動物に類似した脳・鰭を支持する構造・ヤツメウナギやヌタウナギに類似した角質歯など,脊椎動物を特徴づける解剖学的構造を持っているように見えることが挙げられていた。
この説が正しければ,脊椎動物の形態的多様性についての理解は見直しを迫られる。一方,タリーモンスターの化石の解釈を巡っては議論が続いており,タリーモンスターが本当に脊椎動物かどうかは結論が出ていなかった。
そこで研究では,日本国内の7つの博物館に収蔵されているタリーモンスターの化石計153点およびメゾンクリーク生物群の多様な動物化石計75点を詳細に調べた。
3Dレーザースキャナーでこれらの化石の3Dデータを網羅的に計測し,特に化石の面に残されている微細な凹凸構造に注目し分析を行なったところ,タリーモンスターは脊椎動物ではないことが示唆された。
さらに,X線マイクロCTを用いて,タリーモンスターが持つ歯のような構造の精密観察も行なった。その結果,タリーモンスターの「歯」の構造は,これまで知られていた「傘型」と今回新たに発見した「基部隆起型」の2タイプに分けられ,それぞれ顎状構造の下側と上側だけに生えていることを明らかにした。
先行研究では,タリーモンスターの傘型の「歯」がヤツメウナギやヌタウナギの角質歯に似ていることを挙げていたが,今回新たに発見した基部隆起型の「歯」は,ヤツメウナギやヌタウナギの角質歯には見られない形状だった。
研究グループは,この研究について,タリーモンスターが脊椎動物以外の脊索動物か,形態的に特殊化したなんらかの旧口動物であることを示唆し,その正体を巡る論争に大きな進展をもたらすものだとしている。