名古屋大学の研究グループは,芳香族ナノベルトである「メチレン架橋シクロパラフェニレン(MCPP)」を様々なリングサイズで合成するとともに,MCPPがリングサイズによって蛍光特性や電子・磁気的性質が異なるという特性をもつことを明らかにした(ニュースリリース)。
芳香族ナノベルトは芳香環が筒状につながった分子であり,他に類をみない剛直な環状構造をもつため古くから興味がもたれてきた。2017年の研究グループの報告を皮切りに世界中で様々なナノベルト合成が行なわれており,電子材料としての応用展開が始まっている。
一方,それらの合成は依然として多段階であり,多種類のリングサイズのものを一挙に合成することは難しい。そのため,現状,芳香族ナノベルトのリングサイズに依存した性質には未解明な点が多い。
研究では,構成するベンゼン環の数が6個,8個,および10個のMCPPをそれぞれ合成することに成功した。これらは全て同じ手法で,市販化合物からわずか4段階で合成することができる。
合成したMCPPの構造・光電子的性質を調査すると,リングサイズに依存して異なる性質を示すことが明らかになった。紫外可視吸収スペクトルはリングサイズが大きくなるほど長波長側に観測され,スペクトルがリングサイズに依存しないCPPとは異なることがわかった。
また,[6]MCPPはほとんど蛍光を示さないのに対し,[8]MCPPは橙色の蛍光 (蛍光波長=592nm,蛍光量子収率15%)を,[10]MCPPは黄緑色の蛍光(蛍光波長=527nm,蛍光量子収率25%)を示すことがわかった。
これらは,芳香族ナノベルトの蛍光としては非常に強く,リングサイズの大きなMCPPはこれまでにない蛍光性ナノベルトとして応用される可能性を秘めているといえるという。 また,磁気的性質がリングサイズに依存することも実験的に明らかにした。
この研究は,芳香族ナノベルトの化学に新たな知見を与えるだけでなく,合成が期待されている「マルチラジカル性をもつ機能性分子」の創製につながる画期的な成果だと研究グループはしている。