日大ら,室温で円偏光りん光を発する液体材料を開発

日本大学と近畿大学は,強い円偏光りん光(CPP: Circularly Polarized Phosphorescence)を示す液状化白金錯体の開発に成功した(ニュースリリース)。

有機発光材料は,スマートフォンやテレビなどに用いられている有機EL素子をはじめとして,蛍光塗料やバイオプローブなど,幅広い分野で活躍している。中でも,キラルな構造をもつ発光体は,右回転または左回転のどちらかに回転しながら振動する円偏光を発することが知られており,この現象を円偏光発光(CPL)と呼ぶ。

高効率なCPLを示す材料は,三次元ディスプレーや光暗号通信などの次世代光学材料への応用が期待され,その中でも有力な素材の1つとして,円偏光りん光(CPP)を示すキラルな白金錯体が注目されている。

しかしながらこれまでに報告されている白金錯体は,常温常圧下で固体状態であり,膜化してディスプレーを作成したり,成形加工する際に,高温・高真空下での処理や多量の有機溶媒に溶解させる必要があり,汎用性に課題があった。

研究グループは,低融点化ユニットを導入した新たなキラル白金錯体の設計・合成を行ない,液体状態でCPPを示す材料の開発に成功した。さらに液体状態においては,有機溶媒に分散させた状態と比較してCPP強度が大幅に増強されることを明らかにした。

研究では,りん光を示す白金錯体の分子骨格に,低融点化ユニットとしてポリエチレングリコール(PEG)鎖を4つ導入した化合物を設計・合成した。その結果,PEG鎖を持たない類似錯体が300℃以上の高い融点を示す一方で,PEG鎖を導入した本錯体では44℃と比較的温和な温度で融解することが判明した。

さらに,融解させたサンプルを室温まで冷却したところ,固化することなく過冷却液体状態を形成し,黄色のりん光発光を示した。続いて,合成した錯体のCPP特性を検討したところ,錯体を有機溶媒に分散させた溶液状態では弱いCPPしか示さなかったのに対して,過冷却液体状態では溶液状態と比較して約7倍もの強いCPPを示すことがわかったという。

今回の研究は,CPPを示す液体材料の開発のための新たな分子設計指針を示すとともに,加工性・成形性に優れたより実用的な発光材料の開発に寄与すると考えられるもの。開発した液体材料は,不揮発性かつ様々な形状の材料表面に塗布することが可能であり,研究グループは,折り曲げ可能なフレキシブル素子の開発に優位であるとしている。

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