北海道大学の研究グループは,イオン拡散技術と高圧印加技術を融合することで,新たな合成手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
熱力学的に準安定な化合物は単純な熱処理では合成できないため,現代においても広大な未踏領域が残されており,このような領域を開拓することで,新たな機能の発現が期待される。しかし,準安定な物質は単純な焼結では合成が難しく,新たな技術の開発が求められていた。
研究グループは,拡散現象を利用して,固体中から特定の元素だけを除去・導入・交換するような反応を促すことで,準安定状態の実現を目指した。
拡散を利用して物質の組成を変える場合,電子伝導性の物質は内部に電界がかからないため,拡散の駆動力として一般に用いられる電圧印加が利用できまない。また,拡散が進行する物質の体積も同時に変化してしまい,特に多結晶を構成する結晶子は,組成変化に応じて膨張・伸縮し,粒子間の界面に生じるひずみやクラック等が,接触不良の原因となり,拡散反応を妨げるだけでなく,イオンや電子の本質的な輸送特性の評価を困難にするという課題がある。
研究では,化学ポテンシャルを利用したイオン拡散技術と,高圧印加技術の融合した高圧拡散制御法により,これらの課題をクリアした。具体的には,高圧合成に用いられるキュービック型マルチアンビル装置で6方向からアンビルを介して圧力セルを押しつぶすことにより,圧力制御をした。
従来の圧力セルは,アンビルを介して上下の電極から電流を注入しカーボンヒーターを通電加熱することにより,温度を制御する。研究グループが開発した圧力セルは側面から電力を投入することで,カーボンヒーターを加熱し,上限面の電極を試料スペースへと導入することで,電圧の同時制御が可能なセルの実現を目指した。
研究グループはこの技術を用いて,電子伝導性を有する多結晶物質NaAlB14の結晶構造から,Naのみを拡散させて抜き出し,AlB14という新規準安定物質の多結晶体を合成し,高圧拡散制御法の実証を進めた。構造の骨格を保持したままNa濃度を減少させたことで電子伝導特性を大きく変調し,AlB14の電気抵抗率は室温で105倍以上減少することを見出した。
この技術は固体中の結合状態が大きく異なる物資系に対して有効であるとし,今後は計算科学の活用により,有望な物質系が選定できると期待されるという。研究グループは,これにより提案される様々な物質系に対して,組成変調による準安定状態と緻密な焼結状態が両立したバルク多結晶体を作り出すことにより,新たな機能の発現に繋がると期待している。