産業技術総合研究所(産総研)と東京理科大学は,有機ELディスプレー用の次世代発光材料である熱活性型遅延蛍光材料(TADF材料)を特徴づける発光の時間変化(過渡発光データ)を極めて短時間に得ることができる手法を開発した(ニュースリリース)。
TADF材料はイリジウムなどの希少金属を使わず,原理的に効率100%の発光が可能な次世代の有機EL用発光材料。TADF材料は予測した発光性能に対するバラツキが大きく,開発は容易ではない。深層学習によるTADF材料の開発も進められてきたが,深層学習を行なううえでも,TADF材料を特徴づける過渡発光データの数が不十分だった。
TADF材料の過渡発光データには,瞬時蛍光と遅延蛍光という,レーザー光を試料に照射してから発光するまでの時間帯が大きく異なる2種類の発光が含まれる。一般に,瞬時蛍光はナノ秒の極めて短い時間だけ光るが,遅延蛍光はマイクロ秒以上と瞬時蛍光よりも1000倍以上も長く光り続ける。
また,遅延蛍光は瞬時蛍光よりも100分の1から10000分の1程度の強度で観測されるが,この発光強度を時間範囲において途切れなく評価することが必要。この測定にはデジタルオシロスコープを応用した。
TADF材料の計測の従来法である単一光子計数法と違い,オシロスコープは沢山の光子を一度に計測できることから短時間での過渡発光データの取得が原理上可能。しかし,オシロスコープの特性上,TADF材料が示す桁違いの強度差がある瞬時蛍光と遅延蛍光を同時に計測することは困難だった。
研究では,瞬時蛍光用の高速な検出器,瞬時蛍光と遅延蛍光の両方を測れる中速の検出器,遅延蛍光だけを高感度に測れる低速の検出器がモーターで自動的に切り替わる装置を開発し,それぞれの計測データをプログラムでつなげ,サブナノ秒からミリ秒以上の幅広い時間と7桁以上にも渡る強度範囲の過渡発光データの取得を実現した。
この結果,従来法で約3時間をかけていた測定結果が3秒で得られた。また,従来法より3桁を越える光強度範囲を測れることで,今までは単なる蛍光材料と思われていた材料が,非常に弱いながらも遅延蛍光を放出するTADF材料であったことも明らかにした。
さらに,得られたTADF材料の過渡発光データの深層学習への応用を検証し,発光の挙動そのもののデータを深層学習に直接応用できることを示した。
研究グループは,TADF材料に関する高品質なビックデータを集めることにより,深層学習を用いたTADF材料の開発を実現するとともに,試料の自動調製から過渡発光を含むさまざまなデータを自動計測できる装置の開発を目指すとしている。