筑波大学の研究グループは,硫酸の代わりに,天然の酸性温泉水を,合成溶媒(プロトン酸の供給源)および電気伝導を担うキャリアを発生するためのドーピング剤として用いて,導電性プラスチックポリアニリンの合成に成功した(ニュースリリース)。
近年,導電性高分子は,導電性のみならず,発光や光吸収といったさまざまな性質についても研究が進んでいるが,金属ほどは大電力を流すことに適しておらず,主に,防錆材料や静電防止材料,センサーなどの用途に活用されている。
ポリアニリンは導電性高分子のうち最も汎用性が高く,コストが低い。ポリアニリンは水中での合成が可能であり,量産化が行なわれているが,合成の過程で多量の硫酸もしくは塩酸を使うため,作業工程に注意を要するという課題があった。
工業的なプラスチックの合成において水を利用できると,コスト削減だけでなく,天然資源の有効活用にもつながる。とりわけ温泉水は,硫酸や塩酸が溶解しているにもかかわらず,安全に利用することができる資源と考えることができる。
研究グループでは,ポリアニリンの新しい合成法について探索しており,酸性の天然水である温泉水のポリマー合成への直接使用を着想した。そこで各地の温泉を調査したところ,特に日本の酸性温泉がポリアニリンの合成に適していることが分かった。
温泉水のプロトン酸成分がアニリンと反応し,アニリン硫酸塩を作る。ここに,酸化剤を加えることにより,連鎖的に反応が進行し,エメラルドグリーンのポリアニリンが生成する。
ポリアニリンは通常,高濃度の硫酸を徐々に滴下し,発熱に気をつけながら合成する。強酸性の温泉水の成分は,すでに適切な合成条件と一致しているため,そのままで安全にポリアニリン合成に利用でき,従来の手法と同程度の収率でポリアニリンが得られるという。
研究グループは日本各地の強酸性の温泉水を用い,ポリアニリンを合成しながらpHの変化,電気伝導性を調査した。その結果,電子スピン共鳴により,電気伝導を担うチャージキャリアであるポーラロンの存在を確認し,その導電メカニズムが従来のポリアニリンと同様であることが分かった。
また,電気伝導度測定の結果,通常のポリアニリンと同程度の電気伝導度を示した。また,温泉から得られる湯の花を蒸留水中に溶解した中で反応を行なったところ,温泉水中と同じようにポリアニリンが得られた。このことは,新しい天然資源への注目と,温泉排水の再利用の可能性をもたらすとする。
研究グループは今後,ポリピロールなど他の高分子や,光学活性を持つ特殊な構造のポリアニリンなどについても検討を進める。また,このようにして得られた導電性高分子の,防錆材料や静電防止材料への応用を試みるとしている。