量研機構ら,光を通さない物質にレーザー光を透過

量子科学技術研究開発機構,英インペリアルカレッジロンドン,独ドレスデンヘルムホルツ研究所,九州大学は,J-KARENおよびDracoシステムの高強度レーザー光による相対論的透過現象を実現し,従来よりも2倍高い効率で高エネルギーイオンを発生することに成功した(ニュースリリース)。

従来のレーザー駆動イオン加速では,超高強度レーザーを膜状の物質に照射することで生成された物質表面にできるプラズマの高強度電場によって,イオンを加速する。このとき,通常の高強度レーザー光は膜状物質の内部に侵入できず大部分は表面で反射されるため,効率の良いイオン加速は実現できていなかった。

レーザー光の強度を極限的に高めると相対論的効果により,通常なら反射して侵入できない物質の内部へ光が侵入できることが理論的に予測されている(相対論的透過現象)。そこで研究グループは,膜状物質に照射する超高強度レーザーを制御し,照射強度を十分に高めることで,相対論的透過現象を実現し,同時に膜状物質の内部に生成したイオン全体を効率よく加速した。

実験には,量研関西研のJ-KARENシステム及びドイツのドレスデンヘルムホルツ研究所のDraco-PWシステムを用いた。その結果,膜状物質の厚さが250nmの時に,相対論的透過現象によって膜状物質内部に侵入したレーザー光のエネルギーのほぼすべてが吸収され,効率よく高強度電場が形成され,水素イオンのエネルギーが最も高くなったことが分かった。

シミュレーションの結果,J-KARENシステムの非常に高コントラストなレーザーパルスを用いることで,膜状物質がメインパルスに先立つ低強度のレーザー光により破壊されない状態に保たれ,その後に到達するレーザー強度のピークと膜状物質の内部との相互作用が起こるタイミングで,レーザーが物質内部まで侵入する「相対論的透過現象」が引き起こされることが分かった。

この時,超高度レーザーと膜状物質との相互作用により,照射エリア内の膜状物質中の全ての原子を電離すると同時に発生した全ての電子が光圧で吹き飛ばされ,膜状物質として残ったイオンの塊が自ら作るクーロン電場で光速の40%まで加速されることも分かった。

今回実証した高強度レーザーの相対論的透過現象を用いたレーザー駆動イオン加速の飛躍的な効率向上は,従来の2倍となる世界最高効率まで達した。また,相対論的透過現象を用いた高効率のイオンの加速メカニズムの再現性も示された。

研究グループこの成果が,超高度レーザーを用いた高エネルギーイオンの応用研究やレーザー駆動イオン加速器の実用化と進展に大きく貢献するとしている。

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