東京農工大学の研究グループは,細胞活動の一つであるエンドサイトーシスを人工的に模倣し,ウイルスの封入剤へと応用することに成功した(ニュースリリース)。
エンドサイトーシスは細胞活動で見られる膜変形現象の一つであり,細胞膜が内側に陥入し,分裂して細胞内で小胞(ベシクル)となることで,細胞外部から生体高分子を高効率で取り込むことを可能にする。エンドサイトーシスは細胞活動においては普遍的な現象であるものの,その動的な膜変形挙動を生理的環境下で人工的に設計することはこれまで困難だった。
研究グループは,リポソームのエンドサイトーシス様の分裂を実現するため,光刺激によって膜の伸長効果を引き起こすことが可能な分子機械(AzoMEx)を設計した。リン脂質であるジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)からなる巨大単層ベシクルにAzoMExを組み込み,光を照射したところ,リポソーム内部への分裂が誘導されることが明らかになった。
さらに,マイクロメートルスケールのウイルスであるM13ファージを共存させた状態でベシクルの分裂を誘導したところ,ベシクル内部へ高効率でM13ファージが封入されることが確認された。封入されたM13ファージは血中の免疫細胞などから保護され,血中投与によって感染性を保持した状態で,マウス体内複数組織へ送達可能であることを明らかにした。
今回実現した,エンドサイトーシス様の分裂によってリポソーム内封入したM13ファージをマウス血中に投与したところ,血中内での安定性が向上し、感染能が保持された状態で複数組織へと送達可能であることが明らかになっている。
このように生体高分子を効率的に封入・送達することが可能なキャリア材料の設計は,今なお困難であり,研究グループは,今後この膜変形リポソームは様々な生体高分子を生体内送達するためのキャリア材料へと応用されることが期待されるとしている。