兵庫県立大学,東京大学,京都大学,高輝度光科学研究センター,理化学研究所,米Rutgers大学は,メスバウアー吸収分光法により,量子物質超伝導体β-YbAlB4の異常金属相における超低速臨界的電荷揺らぎを観測することに初めて成功した(ニュースリリース)。
異常金属状態は,量子物質で発達するユビキタスな物質状態であり,量子臨界点を中心とした状態相図に扇形領域として現れる。さらに,量子臨界点近傍においては超伝導状態が安定化することも知られている。
異常金属状態は,比熱,抵抗率および磁気輸送に特徴的な温度依存性を示す。これらの特性は,通常金属のフェルミ液体論の標準的な概念とは相いれないことが謎とされてきた。この謎を解き,さらには超伝導の発現機構の解明のため,フェルミ面不安定性,原子価数量子臨界性など異常金属的挙動の起源について幅広い理論的提案が行なわれている。
一方,実験では電子スピン・ダイナミクスは広く研究されている。しかし,適切なプローブが存在していなかったため,電子電荷ダイナミクスについてはほとんど調べられていなかった。低速電荷ダイナミクスを検出する古典的手法は放射線源を用いたメスバウアー吸収分光法であり,電荷秩序物質における電荷ダイナミクスを観測していた。
しかし,メスバウアー吸収分光法の普及は,適切な放射線源作製の困難から妨げられてきた。これらの困難を克服するために,放射光高輝度X線を使用する新世代メスバウアー分光法が近年開発された。この放射光メスバウアー分光法は,従来のメスバウアー技術が適用できない物質の電荷ダイナミクスを観測するための理想的なプローブを提供する。
今回研究グループは,大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL09XUおよびBL19LXUにおいて,短寿命174Yb同位体のエネルギー分解能が向上する条件下での放射光174Ybメスバウアー分光法を用いて,単結晶β-YbAlB4のメスバウアー吸収スペクトルを温度と圧力を変えながら測定した。
その結果,フェルミ液体状態での単一吸収ピークは,異常金属状態において2つのピークに分裂することが分かった。このスペクトルの変化は,ポーラロンの形成により長い時間スケールで揺らぐ電子電荷の影響で,単一原子核遷移が変調された結果として解釈されるという。
研究グループは,この超低速臨界的電子電荷揺らぎの観測が,異常金属状態と超伝導発現の起源に新たな知見を提供するとしている。