埼玉大ら,超高層大気の収縮をX線天文衛星で解明

埼玉大学,京都大学,宮崎大学,理化学研究所,日本大学は,X線天文衛星を用いて,中間圏・下部熱圏(高度70-115km)領域の大気密度の長期変動の測定に成功し,大気が収縮していることを明らかにした(ニュースリリース)。

地球温暖化に伴い,高度20km以上の上空大気は寒冷化し,その結果収縮すると考えられているが,それを実証する数十年スケールの観測データは乏しく,特に収縮が最も激しいと予測される中間圏・下部熱圏領域においてはほとんど皆無だった。

研究グループは,天体からのX線が地球大気に遮られる掩蔽現象を用い,中間圏・下部熱圏領域の大気密度を計測することに成功した。X線天文衛星は天体を観測するための衛星だが,地球低軌道を周回するポインティング衛星の場合,全観測時間のうち約3割は天体が地球に隠されて(=天体が地没して)使えない。

そこで研究グループは,天体観測と地没が切り替わる一瞬に着目。この時,天体からのX線は,地表すれすれに大気中を長い距離走って観測装置に到達するため,通常観測時に比べ大気による吸収・散乱をより激しく受け,強度が減衰する。この減衰率から大気密度を計測できる。

1994年から2022年にかけて取得した日米5機のX線天文衛星の観測データを解析し,大気密度の長期変動を調査した。観測対象には,超新星爆発の残骸であるかに星雲を選定。この天体はX線で極めて明るく,かつ光度が安定しているため,X線天文衛星の観測機器の性能評価天体として,観測データが数十年前から継続的に取得・蓄積されている。

大気掩蔽中のX線強度は,天体の地表高度が高い時には大気減衰を受けておらず,高度100km付近の中間圏・下部熱圏で一気に吸収される。高度6kmごとに切り出したX線スペクトルを解析し,各高度における大気密度を定量的に評価した。

この解析を全データに対して行ない,28年間の密度推移を高度6km間隔で導出した結果,高度70-115km全域で大気密度が時間と共に徐々に低下することが明らかになった。これは過去になく信頼度の高い結果だという。

このデータから長期変動率を高度ごとに導き,温室効果ガスの増加を考慮したシミュレーション結果と比較したところ,特に高度90km以上でデータとモデルはよく一致した。一方でそれ以下の高度ではデータとモデルの乖離が見られ,オゾン層がここ数十年で回復したために収縮のペースが落ちた可能性があるという。

この手法は,将来にわたって超高層大気をモニターする貴重な手段になる。研究グループは,地球温暖化の理解の深化や,人工衛星のライフタイムの推定精度向上などに貢献する成果だとしている。

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