奈良先端科学技術大学院大学(NAIST),近畿大学,大阪大学,台湾成功大学は,ダイヤモンドとその上に形成されたアルミナ絶縁膜の間に形成される欠陥の立体原子配列を決定した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドは放熱性や耐電圧性,⾼電⼦移動度,対放射性に優れており,次世代の半導体として注⽬されている。ダイヤモンドに電気を通すための⽅法として,表⾯を⽔素にさらすことで電気伝導層を形成する⽅法が研究されている。
この⽅法では、ダイヤモンド表⾯に伝導層を保護するための絶縁膜を形成する必要があるが,絶縁膜とダイヤモンドの間に電気的な⽋陥が形成されてしまい,デバイスの性能を下げてしまう問題があった。
具体的にはアルミナなどによる絶縁膜が研究されており,その原料ガスとしては,⼀般的にTMA(C3H9Al)が⽤いられるが,研究ではDMAH(Al(CH3)2H)を使い,従来よりも⼤きく⽋陥を低減させることに成功した。
絶縁膜の構造は,⽔素が結合したダイヤモンド表⾯の上にアモルファスのAl2O3絶縁膜が載っていると考えられるが,界⾯で⽋陥を形成している起源は明らかになっていなかったため,⽋陥の原⼦配列を調べた。
従来の⽅法で⽋陥の⽴体原⼦配列測定は不可能なため,研究グループは光電⼦ホログラフィーによって絶縁膜に埋もれた界⾯の原⼦配列観察に挑んだ。光電⼦ホログラフィーでは界⾯の⽋陥からの信号(光電⼦)だけを選別して測定でき,他の測定法とは⼤きく異なる。この測定には,開発した新型の電⼦エネルギー分析器を⽤いて,⼤型放射光施設SPring-8で行なった。
光電⼦ホログラフィーは,1nm程度の極薄絶縁膜の下に埋もれた界⾯の⽋陥の⽴体原⼦配列を測定可能にする。SPring-8の明るいX線と,新型装置での⾼精度な測定により,⽋陥を構成する原⼦からの微弱な信号を捉えることで,光電⼦ホログラフィーの撮影に成功した。
この光電⼦ホログラフィーから⽴体原⼦像を得ることができ,⽔素に暴露したダイヤモンドの表⾯の⼀部は,C-O-Al-O-Cの橋が架かるような構造になっていることが分かった。この⼿法を⽤いて,⽋陥量の異なる2種類のダイヤモンドサンプルを測定し,⽋陥の原⼦配列を決定した。
研究グループは,⽋陥の原⼦配列が決まったことにより,⽋陥を低減し,ダイヤモンド半導体がデバイスとして利⽤できるようになれば,パワー半導体の⼩型化や低消費電⼒化が実現され,エネルギー分野などの多くの先端技術に⼤きな⾰新をもたらすとしている。