中部大学と慶應義塾大学は,ヘイケボタルが光の「またたき」を使ってコミュニケーションしていることを明らかにした(ニュースリリース)。
ホタルの成虫は,光を使ってオスとメスがコミュニケーションをする。このとき,その光り方の違いが,お互いが同種であることや異性であることを見分ける情報となっている。一方,日本を代表するホタルの一種であるヘイケボタルは,オスもメスも「またたき」をともなう点滅発光をするが,その意味は不明だった。
研究グループは,野生のヘイケボタルを撮影し,その動画を分析した。その結果,草に止まっているホタルには「オス」「未交尾のメス」「交尾済みのメス」の3タイプがいて,それぞれが異なる発光パターンを示すことが明らかになった。
「オス」はミリ秒レベルの速いまたたきを伴う点滅を繰り返しながら,「未交尾のメス」に近づいていく。このときの「未交尾のメス」の点滅にはまたたきがなく,1回の発光時間も非常に短くなっていた。
一方,草に止まっている「交尾済みのメス」の点滅には,オスのようなまたたきがあり,1回の発光時間はやや長くなっていた。つまり,オスは「またたきをせず1回の発光時間が短い発光パターン」を交尾相手として見分けていると考えられた。
そこで研究グループは,ヘイケボタルと同じ黄緑色に光る小型LEDランプを使って,プログラミングにより1回の発光時間とその時のまたたきの強弱を変えた人工のホタルの光を作り,この装置を野外に設置した。
そのデータを統計解析した結果,草の上にいたヘイケボタルのオスは,「またたきが小さく,発光時間が短い光」により強く誘引されてくることがわかった。このことは,野外観察から推測された「オスは,またたきがなく1回の発光時間が短い発光パターンを交尾相手として見分けている」という仮説を支持する。
ホタルの発光コミュニケーションについてのこれまでの理解では,シンプルな時間的要素(発光時間や応答遅れ時間など)が関わっていることまでは分かっていた。しかし今回,「またたき」というミリ秒レベルの振幅要素も情報として使われていることが初めて分かった。
一方,地上に降りたヘイケボタルのオスが「またたき」を伴った発光を始め,飛んでいるときのオスの発光にはまたたきがないのか,なぜ交尾を終えたヘイケボタルのメスは、オスのような「またたき」を伴った発光をするようになるのかといった疑問が残る。
こうしたホタルの求愛システムの理解が進めば,ヘイケボタルの保全活動においても重要なヒントになると研究グループは期待している。