神戸大学,東京大学,大阪公立大学は,クモランの根の光合成機能を,隣り合って生育することもある近縁種のカヤランの葉や根と比較解析し,クモランの根は,光合成に特化しており,まさにほぼ「葉」というべき数々の性質を併せもつことを明らかにした(ニュースリリース)。
樹上で生活するラン科植物のクモランは,葉が退化しており根だけで一生のほとんどを過ごす。クモランの根は,他の植物の葉と同様に緑色をしているため,光合成により,ある程度自活していると推測されていたが,実際にどの程度光合成できるかは不明だった。
そこで研究グループは,クモランの根が光合成をどの程度行なえるのかを,近縁種で生育環境も似ているカヤランと比較しながら,様々な視点で解析した。
まず電子顕微鏡を用いた解析により,カヤランの根とクモランの根はどちらも葉と類似した葉緑体を発達させていることが分かったが,色素分析から,クモランの根に含まれるクロロフィルの量はカヤランの根よりも多く,新鮮重量当たりではカヤランの葉に匹敵することが明らかとなった。また,光合成の電子伝達活性も,クモランの根はカヤランの根よりも高いことが判明した。
次に,これらの植物のCO2取り込み活性を調べた結果,カヤランの葉が着生ランに特徴的な,夜にCO2を取り込み,昼にそれを光合成に使うCAM型光合成を行なう一方で,気孔をもたないカヤランの根は,一般的な植物と同様にC3型光合成を行なうことが分かった。
また,クモランの根は気孔をもたないにもかかわらず,カヤランの葉と同じくCAM型光合成の特徴を示した。クモランの根を組織学的に詳しく調べたところ,通気組織が顕著に発達しており,そこが空気の通り道になっていることも明らかになった。
カヤランの根では光合成活性は低く,CAM型光合成の特徴は見られなかったことから,クモランでは葉に代わり根が光合成に特化し,葉と同等の光合成機能をもつに至ったと考えられるという。
今回,クモランの根はカヤランの葉に匹敵する光合成活性をもつこと,気孔は無いものの特殊な通気組織を備えること,カヤランの葉と同様にCAM型光合成を行なうことが明らかになった。
つまりクモランでは,葉をもたない代わりに根が光合成に特化するように進化したと考えられる。研究グループは,ランの生態と進化における新たな知見を提供するとともに,植物の多様なあり方と光合成との関係の解明に貢献する成果だとしている。