東工大ら,葉緑体を改変し酵素活性の制御を解明

東京工業大学と岡山大学は,植物の光合成反応でATP合成を担っている葉緑体ATP合成酵素の機能制御スイッチ部分を遺伝子組み換えによって改変することで,酵素活性の制御のしくみを分子レベルで明らかにした(ニュースリリース)。

光合成を行なう葉緑体内の酵素は,自然界で変化する光環境に応じてその活性を調節し,代謝機能を切り替えるのに不可欠な「酸化還元スイッチ」を備えている。中でも,分子モーターとして知られる葉緑体ATP合成酵素は,回転軸になるタンパク質部分に制御スイッチを持っており,このスイッチが回転を制御するしくみは以前から注目されてきた。

研究グループは,この葉緑体ATP合成酵素の制御スイッチのしくみを調べるため,遺伝子改変が容易な緑藻クラミドモナスを用い,遺伝子組み換えによって制御スイッチ部分のさまざまな構造変異体を作出した。

具体的には,制御スイッチを構成するアミノ酸配列の部分的な切除・置換を行ない,スイッチの動作の詳細を調べた。これまでの研究での構造解析から,このスイッチは大きく2つの構造単位(ドメイン)で構成されていることがわかっていたが,今回の研究により,この2つのドメインがそれぞれ果たす役割と,それによって酵素の活性,すなわち分子モーターの回転を制御するしくみが明らかになったという。

この酵素の活性制御の研究では,これまで部分複合体を用いてATP加水分解時の活性変化が調べられていたが,今回の研究では初めて完全な酵素複合体を用いて,ATP合成活性そのものが酸化還元スイッチによって制御されていることを明らかにした。

残された課題は,スイッチがはたらく時に実際にどのような構造変化や,周辺のアミノ酸との相互作用をすることで,回転軸の回転や触媒活性を制御しているのかという点で,実際に回転軸がラチェットのようにはたらく様子が観察できたら面白いだろうとする。

研究グループは,さらに今回の研究は,制御スイッチ部分のアミノ酸配列を自在に書き換えて,酵素を簡便に得る方法を確立できたという点で,構造生物学的な研究の進展にも貢献できるものだとしている。

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