東北大学の研究グループは,超伝導体であるLa1.885Sr0.115CuO4の電荷密度波(Charge Density Wave:CDW)の素性を解明するために,X線自由電子レーザー(XFEL)による回折実験を行ない,絶対温度6.5ケルビンの無磁場中では2種類のCDWが存在し,超伝導と共存するCDWSROからのX線散乱強度が,強磁場で誘起される渦糸液体状態になると突然増加することを見出した(ニュースリリース)。
高い温度で電気抵抗ゼロの超伝導状態になる物質では,常伝導状態から転移した超伝導状態がCDWと密接な関係にあることが分かってきた。しかし2種類のCDWが発見されており,それらが超伝導転移温度とどのような関係にあるかは不明だった。
銅酸化物高温超伝導体における上部臨界磁場は数十テスラと非常に高いことが知られている。そのため磁場下で超伝導とCDWの関係を調べるためには,超伝導状態が変化するほどの強磁場を印可した状態でCDWを観測する必要がある。
また,CDW状態の観測には,十分な入射X線の輝度が必要。そこで米スタンフォード線形加速器センター(SLAC)に,研究グループが開発したポータブル・パルス磁石を持ち込み,強磁場下でシングルショット高輝度X線回折実験を行なった。
まず無磁場でCDWからの回折プロファイルを取得し,その温度依存性から試料内にCDWstripeとCDWSROが存在することを確認した。CDWSROは,超伝導状態で散乱強度が減少することから,超伝導と相関を持った状態であることが示唆される。また,散乱強度の比較からCDWの成分の半分以上がCDWSROであることもわかった。
さらに,磁場を印可すると,ある磁場(Hm)を境にCDWからの散乱強度が急激に増加することを発見した。このHmは超伝導体に侵入した磁束線が融解する磁場であることから,強磁場で誘起される渦糸液体状態とCDWの間に強い結合があることがわかる。超伝導との関係性から,この変化はCDWSROが担っていると考えられるという。
一方Hm以下の強度変化は,SDWの磁気散乱強度の磁場変化と整合することから,渦糸固体状態での磁場変化はCDWstripeの応答であると理解できる。これらの結果は,超伝導と競合する性質を持つCDWstripeとは対象的に,CDWSROは局所的な超伝導対と共存し,渦糸の形成にも関与する可能性を示しているという。
今回,シングルショットプローブである高輝度レーザーとパルス超強磁場の組み合わせが,高温超伝導体の電子不均一性の解明に有効であることを示した。研究グループは今後,超伝導転移温度の高い銅酸化物に対して同手法でCDWの素性を調べれば,超伝導転移機構におけるCDWの普遍的役割が解明されるとしている。