大阪大学の研究グループは,抵抗変化型メモリ素子であるメモリスタを高温で動作させることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
シリコントランジスタの動作温度は,シリコン半導体の物性値(主にバンドギャップ)から200℃以下に限られる。そこで,高温下や航空宇宙・耐放射線などの極限環境下で動作する素子の開発が進められている。
その一つが抵抗変化型メモリ素子「メモリスタ」で,特に,金属酸化物を利用したメモリスタでは多くの研究がされてきたが,熱耐性を有するメモリスタは未達成だった。
金属酸化物からなるメモリスタは,材料内部に存在する酸素空孔イオンによって導電性を示す。また,酸素空孔イオンは電圧印加によって移動するため,不揮発な抵抗変化を発現する。
これまでメモリスタに利用されてきた酸化チタンや酸化タンタル,酸化ハフニウムといった材料では,電圧印加によって導電性を示す部分がフィラメント状に繋がることで抵抗が変化する。
この「フィラメント型」メモリスタは高い抵抗比を実現できる一方,フィラメントの形成位置やサイズなどが制御できないため,性能のばらつきや長期的な信頼性に問題がある。そこで研究グループは,「非フィラメント型」,つまりフィラメントを形成させずに酸素空孔イオンの分布を制御することで抵抗変化を引き起こす材料に着目した。
今回,ワイドギャップ半導体としても知られている酸化ガリウムを,パルスレーザー蒸着法を用いて数十nm厚の還元性アモルファス薄膜に生成し,白金上部電極と酸化インジウムスズ下部電極で挟んだキャパシタ型メモリスタを作製した。
この還元性アモルファス酸化ガリウム(a-GaOx)メモリスタの電流-電圧特性を計測したところ,上部電極への正/負電圧の印加に応じて出力電流が変化する「逆8の字形ヒステリシス特性」が得られ,メモリ機能を有することがわかった。
これは,電子を供給して正に帯電した酸素空孔イオンが負電圧印加で上部電極側へ引き寄せられたときに低抵抗状態に,正電圧印加で同電極側から引き離されたときに高抵抗状態になる特性。
また,それらの状態は滑らかに遷移しており,このメモリスタが酸素空孔イオンの分布状態が変化する「非フィラメント型」であることを示した。さらに,600K(327℃)の高温下でも非フィラメント型の特性が現れ,そのメモリ機能は長時間安定して保持されたという。
これらの結果から,a-GaOxメモリスタが他の金属酸化物メモリスタと比較してトップクラスの熱耐性を備えていることが分かった。研究グループは,極限環境下におけるメモリ集積回路やAIハードウェアに用いる脳型コンピュータ素子への応用が期待されるとしている。