北大,プラズマ流観測でEUVの高出力化に新知見

北海道大学,大阪大学,米パデュー大学,ギガフォトンは,EUV露光の高出力化に重要な役割を果たす,光源プラズマの複雑な流れ構造を世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

EUV露光では光を転送するEUV領域のミラー反射率が高くないため,十分な光量を確保するためには,高出力のEUV光源(温度が30万度程度のプラズマ)が必要であり,そのさらなる高出力化・低消費電力化が求められている。

EUVが光る原理を考えると,光源プラズマの温度や密度,そしてプラズマの流れを計測し,制御することが最適化の基本となる。しかし,EUV光源プラズマは,微小(直径0.5mm)・短寿命(20ns程度)なことに加え,高密度(0.2kg/m3程度)かつ高速移動(10km/s以上)することから,その計測は困難だった。

外部からレーザー(電磁波)を入射し,プラズマとレーザーの相互作用で生じる2次的電磁波(散乱光)を計測することで,非接触で高い空間・時間分解能が得られるレーザートムソン散乱(LTS)法はその計測条件を満たすが,得られるトムソン散乱光は極めて微弱なことからLTS計測は技術的に不可能とされてきた。

そこで研究グループは,6枚の反射型回折格子などからなる差分散型回折格子分光器を立案・作製し,それによってEUV光源プラズマの電子温度・密度の詳細構造を初めて計測可能とした。

作製した差分散型回折格子分光器を用いて計測を進めていくと,プラズマの中心位置(プラズマ生成用レーザーの軸上)では,周辺部より密度が低い中空様構造を形成しており,この中空様構造が,高効率化に重要な役割を果たしている可能性が大きいことが判明した。一方で,この中空様構造が発現すると,なぜEUV放射に適した高温・高密度プラズマが比較的長時間維持されるのかは不明だった。

研究グループはトムソン散乱光スペクトルのドップラーシフトに着目。受光する散乱光の波長シフトの解析から,わずか±200µm程度の微小領域内で,プラズマの流れに微細な速度場構造が存在することや,それが速度の絶対値として可視化されていることが分かった。また,プラズマの中心軸上に向かうプラズマの流れを観測し,生成条件で流れが制御できることを確認した。

研究グループは,この中心軸に向かうプラズマの流れが,EUV放射の効率を高めていることを突き止め,中空構造発現時に生じる中心軸上に向かう流れにより,EUV発光に適したプラズマが,中心部に長時間留まる効果があることを発見した。

研究グループはこの発見が,EUV光源のさらなる高出力化の鍵となる知見であると同時に,「プラズマの流れを制御して光の出力を向上させる」という,新しい概念の可能性を示すものだとしている。

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