理研,植物油脂の合成を担う酵素を解明

理化学研究所(理研)は,植物の酵素LPPα2とLPPε1が協調して油脂の合成と植物体の成長に重要な役割を果たすことを明らかにした(ニュースリリース)。

油脂は,グリセリンというアルコールに長鎖脂肪酸が結合したもので,細胞内のエネルギー源として生物の生育に重要であるだけでなく,様々な産業で利用されている。特に,環境中の二酸化炭素を光合成により植物に取り込み,有用な油脂に変換する代謝改変技術は,「バイオものづくり」の一環として低炭素社会の実現に貢献すると期待されている。

植物に限らず,油脂は細胞内の小胞体において合成され,フォスファチジン酸フォスファターゼ(PAP)という酵素が合成の鍵段階の反応を触媒することが知られていた。しかし,この酵素の実体は植物においては長らく不明だった。

研究グループは,モデル植物のシロイヌナズナに存在する多くのPAP酵素の候補のうち,LPPα2とLPPε1を二重に遺伝子破壊すると植物体が死に至ることを発見したことから,これらの二つの酵素が協調して油脂の合成を担っているという仮説を立てた。

これらの酵素がどこに局在するかを調べたところ,LPPα2は小胞体に局在するものの,LPPε1は葉緑体の外包膜に局在することが分かった。これらの酵素をそれぞれ植物体内で過剰に生産させたところ,葉緑体のLPPε1だけを過剰生産させた場合も,小胞体のLPPα2だけを過剰にした場合と同様に種子の油脂量を20%程度増加させることが分かった。また,LPPε1は葉緑体外包膜の特定の部位に局在し,小胞体に局在するLPPα2と近接していることも分かった。

これらのことから,細胞内で異なる場所にある二つの酵素が,葉緑体と小胞体が近接する特定の部位(コンタクトサイト)において協調して油脂合成をつかさどる,すなわち小胞体の油脂合成に葉緑体が関与するという,油脂合成の新しい仕組みを明らかにした。

この研究により,長らく不明であったPAP酵素の実体がLPPα2,LPPε1という二つの酵素で,これらを植物体で過剰に生産させると種子の油脂量が増加することが分かった。また,これまで油脂の主な合成の場とは考えられていなかった葉緑体が油脂合成に重要な役割を果たすことも明らかになった。

油脂はバイオディーゼルをはじめとするさまざまな工業製品の原料として活用されている。研究グループは,油脂を植物体内に蓄積させる技術開発を通じて,低炭素社会の実現に向けて環境中の二酸化炭素を植物体内で有用な油に変換して活用するバイオものづくりに貢献できるとしている。

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