矢野経済研究所は,国内の物流ロボティクス市場を調査し,市場規模,参入企業の動向,将来展望を明らかにし,2021年度の物流ロボティクス市場規模(事業者売上高ベース)を,前年度比127.5%の242億9,000万円と推計した(ニュースリリース)。
それによると,EC需要の増加や物流業界の人手不足を背景に,物流倉庫内の自動化ニーズは年々高まっているという。2021年度は2020年度に引き続き,コロナ禍による先行き不透明な状況が続き,大規模投資の見送りや延期,半導体不足の影響によりロボット導入までのリードタイムが増加するといったマイナス要因が見受けられた。
その一方,新型コロナウイルスの影響により延期されていたGTP(Goods To Person)型AGVなどのロボットの大規模導入に加え,海外メーカーを中心に新たに市場に参入した物流ロボットの増加,ロボットの販売・提供方法の多様化(RaaSの登場)により導入ハードルが下がったことで,市場全体としてはプラス推移となったとする。
物流ロボットの導入金額は高額なものも多く,種類にもよるが投資のハードルは高い。企業の規模により投資できるか否かが分かれてくる。最近は,ロボットを「所有」から「利用」する時代へと移り変わりつつあり,RaaS(Robot as a Service)としてロボットをサブスクリプションで提供する事業者も増えているという。
RaaSの場合,ユーザーは必要な期間に必要な台数だけロボットを利用することが可能。ロボットハードのレンタルだけでなく,導入サポートから導入後の保守までを含めサービスとして提供しているケースが多く,ユーザーはハードの購入や保守を気にすることなく,現場の最適化に専念することができる。
メーカーの物流倉庫や,あらかじめ長期間稼働することを前提にレイアウトの作り込みまで行なうような大規模な物流倉庫の場合は,従来のようにロボットを購入するほうが適しているといえるが,波動対応など変動要素がある部分に関してはRaaSを活用するなど,使い分けが進む可能性もあるとみる。
2022年度の物流ロボティクス市場規模(事業者売上高ベース)は,前年度比123.4%の299億8,000万円と予測した。2022年度はウィズコロナ時代となり,将来を見据えて戦略的に物流の自動化を進める事業者が増加し,投資意欲も回復してきた。
2018~2020年度に先んじて物流ロボットを導入した事業者が,自社の別拠点に横展開する傾向や,今後新設する拠点に向けロボットの大型導入を計画する動きも見られたという。さらに,これまでは自動化が難しいとされていたデバンニング作業を担うロボットの登場や,搬送用AMRの導入など,新たなロボットの導入も進んでいる。2023年度は,2022年度よりも高い伸び率で推移すると予測している。
物流ロボティクス市場は年々参入メーカーが増加しており,市場の拡大と共に競争も激化している。今後鍵を握るのは,ロボットを制御するソフトウェアだとする。
一定の作業を担う「機械」であれば,導入時から基準通りの生産性を保ち,耐久年数が近づくにつれ生産性が落ちていくのが一般的とされるが,ロボットの場合は,導入した当初が最も生産性が低い状態であり,ロボットを制御するソフトウェアはアップデートが年々行なわれていくため,稼働率は上がっていく仕組みになっている。そのため,いかにソフトウェアの部分で差別化を図るかが重要だとしている。