京都大学の研究グループは,数10ピコ秒以下という超短時間の間に,面内の共振波長分布が高速に自己変化可能なフォトニック結晶を考案し,それを利用することにより,短パルス(<30ピコ秒)かつ高ピーク出力(>80W)レーザー発振を実現した(ニュースリリース)。
来るべき超スマート社会(Society 5.0)においては,自動運転等のスマートモビリティにおいて必須である高精度光センシングや,熱の影響を受けない超精密なレーザー加工を実現するため,数10ピコ秒以下の極めて短いパルス幅をもつ高ピーク出力光源が必要とされている。
しかしながら,従来の半導体レーザーは高出力化のため,光出射面積を増大すると発振モードが多モード化してビーム品質が劣化するため,ピーク出力の限界があった。
研究グループは,こうした問題を解決するべく,高出力動作と高ビーム品質動作の両立が可能なフォトニック結晶レーザーに,可飽和吸収体(光の強度が強くなるとともに,光の吸収が減少する物質)を導入することで,これまでに,パルス幅数10ピコ秒未満でピーク出力20W級の短パルスレーザー発振の実証に成功している。
今回,研究グループは,さらに高出力な短パルス発振を実現するための新たな工夫として,数10ピコ秒以下という僅かな時間の間に,面内の共振波長分布が高速に変化する自己変化可能なフォトニック結晶を考案した。
さらに,このフォトニック結晶を,フォトニック結晶レーザーの内部に導入することで,パルス幅30ピコ秒未満で,ピーク出力80W超(これまでの4倍以上に相当)の短パルス発振を実現した。
可飽和吸収体を利用せずともピーク出力の高い短パルス発振が実現可能であることが明らかとなったことは,レーザー分野にとって極めて重要な新しい成果でだとする。例えば,スマートモビリティ分野で不可欠となるLiDARに適用することにより,人間の目への安全性(アイセーフ条件)を確保しつつ出来るだけ遠くの物体の測距(>200m)が可能となると期待される。
さらに,提案した自己変化フォトニック結晶レーザーに,可飽和吸収体の導入を組み合わせることで,ピーク出力kW級の短パルス・高ピーク出力も実現可能になると期待され,従来は不可能であった半導体レーザー単体でのレーザー微細加工への適用をはじめとして,様々な分野の発展に大きく寄与することが期待されるとしている。