理化学研究所(理研)とユーグレナは,微細藻類のうち,ユーグレナ藻類の一種であるユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis,以下ユーグレナ)の色素(以下カロテノイド)の組成が異なる変異体をゲノム編集技術によって作出し,ユーグレナの眼点(光を感じる器官)における光認識に必要なカロテノイドを同定した(ニュースリリース)。
ユーグレナは「眼点」と呼ばれる赤色の細胞小器官で光の方向を認識し,光源に近づいたり,遠ざかったりすることができる。この遊泳方向の変化を「光走性」と呼ぶ。先行研究により,ユーグレナの眼点に含まれるカロテノイドが光走性に必須であることが示唆されていた。
微細藻類のうち,緑藻類のクラミドモナスの眼点にはβ-カロテンというカロテノイドが蓄積していることが知られていたが,ユーグレナの体内に含まれるカロテノイドのうち,眼点にはどのカロテノイドが含まれるのか,また眼点のカロテノイドが光走性に対してどのように働くのかは分かっていなかった。
今回,研究グループは高効率なゲノム編集技術を用いて,カロテノイドの合成に関連する二つの遺伝子,CYP97H1とCYP97F2のうち前者または両方を欠くユーグレナ株を作出した。これらの株の眼点の有無,カロテノイド組成,光に対する運動性を解析した結果,眼点に含まれるゼアキサンチンというカロテノイドが光方向の認識に必須であり,その合成にCYP97H1とCYP97F2が関わることを実証した。
また,微細藻類のうち,緑藻類のクラミドモナスは眼点に別のカロテノイドを蓄積していることが知られており,研究から微細藻類の種類によって光認識機構が異なることが示された。
この研究から,微細藻類の中でも緑藻類に属するクラミドモナスと,ユーグレナ藻類に属するユーグレナでは光認識機構が異なることが明らかになった。この結果は,藻類の光認識機構の多様性や進化を考える上で重要な知見となるとしている。