東工大,太陽光の可視光を紫外光に変換する膜を開発

著者: sugi

東京工業大学の研究グループは,低強度な可視光を空気中で安定に紫外光に変換する固体膜を発明した(ニュースリリース)。

研究グループは2021年,励起閾値強度が太陽光強度の数分の1で,空気中での連続光照射に対して安定な,可視域においてアップコンバージョン(UC)を行なう固体結晶を開発した。この結晶は,有機溶媒溶液を1~3日静置して起こる結晶析出により生成する。

一方,材料作製の観点では有機溶媒を使用せず,応用可能性の拡大のためには,ガラス基板等の表面に固体膜として生成されること,さらに規定された時間で材料作製が完了することが望ましい。

この目的に好適な分子種を探索し,CBDACおよびPPOをそれぞれ増感分子および発光分子として用いた。これらの分子の混合粉末(CBDAC:PPO=1:30000,モル比)とリングスペーサー(厚さ200μm,ステンレス製)を2枚の円形ガラス板(直径:12mm,厚さ:0.7mm)ではさみ,独自に考案・開発した温度制御成膜装置にセットした。

この装置は,円形ガラス板のスタックを上下からステンレス製のステージで圧縮力を加えて挟みこみ,水平方向に温度勾配をかけ,混合粉末を一旦PPOの融点(約69℃)以上に昇温して融解後,その温度勾配を保ちつつ一定速度で温度降下させる。この工程により,リングスペーサーの内側に厚さ200μmの「CBDACが微量ドープされたPPOの多結晶膜」を得た。

温度制御により,幅数十μmの単結晶ドメインからなる帯状の結晶が温度勾配方向に伸展した多結晶膜を得た。この膜に空気中で波長440nmの光(青色レーザー光)を照射したところ,短波長シフトしたUC光が得られ,その発光フォトンの約60%が紫外域(λ<400nm)に存在した。最適条件で生成された試料では,アップコンバージョン量子効率として最大値50%の定義で4%(最大値100%の定義では8%)という比較的高い効率を達成した。

さらに,空気中で波長440nmの光を,励起閾値強度を十分上回る30mW/cm2の強度で照射し続けたところ,少なくとも100時間以上安定だった。これは,材料を問わず,不活性ガス中で行なわれたものも含め,最長記録の光照射安定性となった。

デモでは,紫外光を除去した模擬太陽光をこの膜に照射し,そこで発生させた紫外光によって紫外硬化樹脂を硬化可能であることも示した。さらに,励起閾値強度が自然太陽光強度の約3分の1と極めて低いことが判明。集光系が不要で,シート化して壁面等に貼り付けた使用形態も想定できるという。

研究グループは,太陽光エネルギー利用の目的に限らず,光に関係する広範な産業技術に革新をもたらしうる成果だとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東北大、光に反応しやすい性質を持つチオグアノシンの新たな光反応性を解明

    東北大学の研究グループは、チオグアノシンをDNA二重鎖内の特定の位置に導入することで、光や化学酸化剤によってDNA鎖間を自在に架橋する新技術を開発した(ニュースリリース)。 光反応による鎖間架橋が種々検討されている。従来…

    2026.01.14
  • 東京科学大、太陽光を有効利用できる色素増感型光触媒を開発

    東京科学大学の研究グループは、従来利用できなかった波長の可視光も利用できる新しい色素増感型光触媒を開発した(ニュースリリース)。 クリーンなエネルギー源として注目されている水素を生成する手法の一つとして、光触媒の研究が盛…

    2025.12.26
  • 公大と兵県大、有機ホウ素錯体の蛍光色変化を超高圧下で観測

    大阪公立大学と兵庫県立大学は、分子内π-π相互作用が、圧力に対する蛍光色の可逆的変化(PFC)に与える影響を調べるため、シクロファン部位をもつ有機ホウ素錯体pCPHとpCP-iPrの単結晶をダイヤモンドアンビルセル(DA…

    2025.12.26
  • 理研、光でがんを選択的かつリアルタイムに可視化

    理化学研究所は、がん細胞で過剰に産生される代謝物アクロレインを利用し、がん細胞内でのみポリマーを自発的に合成できる革新的なポリマー化技術の開発に成功した(ニュースリリース)。 生体関連化学分野において、高分子材料は薬物送…

    2025.12.23
  • 京大ら,深赤色から近赤外光で作動する有機触媒反応を開発

    京都大学と東和薬品は,深赤色から近赤外光(波長600〜800nm)で作動する有機触媒反応の開発に成功した(ニュースリリース)。 光を利用した化学反応(光触媒反応)は,環境負荷が低く選択的な有機合成法として注目を集めている…

    2025.11.07
  • 阪大ら,光に応答した分子を細胞内で可視化

    大阪大学と東京大学は,光照射によりアルキンへと変換される新しい化学構造を開発し,この構造を観察対象となる分子に修飾することで,光に応答した分子を細胞内で可視化することに成功した(ニュースリリース)。 これまで,生体内分子…

    2025.10.24
  • 科学大,超低電圧で光る深青色有機ELの開発に成功 

    東京科学大学の研究グループは,乾電池(1.5V)1本をつなぐだけで光るという,世界最小電圧で発光する深青色有機ELの開発に成功した(ニュースリリース)。 有機ELは大画面テレビやスマートフォンのディスプレーとして既に商用…

    2025.10.09
  • 追手門学院大, 緑色の光を放つ新たな蛍光体を作製

    追手門学院大学の研究グループは,体の奥深くや機械の内部などの温度を正確に測ることができる蛍光温度計の実現に向けYb3+(イッテルビウム)とTb3+(テルビウム)という元素を,LaF3(フッ化ランタン)とLaOF(酸化フッ…

    2025.10.06

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア