パナソニック ホールディングスは,世界最高感度でハイパースペクトル画像を撮影する技術を,圧縮センシング技術を用いて開発した(ニュースリリース)。
従来のハイパースペクトル画像撮影は,イメージセンサの画素ごとに割り当てられた波長の光を検出しているため,波長の数に反比例して感度が低下する,という物理的な制約があった。
そこで同社は,特殊フィルタとして分散ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)を開発し,イメージセンサに搭載した。このDBRは,観察対象から放たれた光を,画素ごと・波長ごとに強度をランダムに変えて通すように設計されている。
これはデータの“間引き”に相当し,適切に“間引かれた”状態で検出することで,“間引かれる前”の状態がソフトウェア上で復元可能になる。この技術では,ソフトウェアが色を分ける機能の一部を担うことになり,従来のハイパースペクトル画像撮影技術の,感度における物理的な制約を突破した。
DBRを用いると,複数波長の光が通るためイメージセンサが検出する光が増える。具体的には,開発したDBRは入射した光のうち約45%を通す。これは,従来技術における光利用効率(5%以下)に比べ約10倍高く,世界最高の感度となるという。
一般的なオフィス照明程度の明るさ(550 lx)で撮影した例では,開発技術では明瞭に撮影できたが,従来技術ではうっすらと見えるのみだった。開発したハイパースペクトル撮影技術は,従来のハイパースペクトルカメラが必要とした極端に明るい特殊照明(10,000 lx以上)を用いることなく,鮮明な撮影を可能にした。
開発した特殊フィルタとソフトウェア上での色復元を用いて,可視光線(波長450-650nm)の領域を20波長に分けたハイパースペクトル画像の撮影に成功し,ソフトウェア上で正確に色を分離することができた。20波長と多くの色情報を検出することができるため,画像分析・認識の精度が向上するという。
従来のハイパースペクトル画像撮影技術における課題に,低い感度に起因した低いフレームレート,及びそれによる操作性の悪さがある。フレームレートが低いとピント合わせや位置合わせが難しくなり,操作性が著しく悪化する。
これに対して,この技術は感度が高いため短いシャッター時間で撮影が可能となる。さらにアルゴリズムで高速化することで,フレームレートが30fpsを超えた高速なハイパースペクトル画像取得に成功し,ピント合わせや位置合わせを容易に行なえるとしている。