京都大学の研究グループは,円偏光純度と明るさを両立させる「発光式円偏光コンバータ」の作製に成功した(ニュースリリース)。
外部の電源を使用せずに非偏光から円偏光を生成する既存の技術は,主に①円偏光子によるフィルター方式,②キラル液晶構造による選択反射方式,③キラル発光体による円偏光発光(CPL)方式,の3つに大別される。
①と②は所望で無い側の偏光を吸収および反射して高純度を達成するため,光強度は原理的に低くなる。また,③は発光体の選択により高い光強度が期待できるが,一般的に円偏光純度と光強度の間にトレードオフの関係がある。
一方,直線偏光発光(LPL)は,直線偏光度と光強度はそれぞれ独立したパラメータとして振る舞うため,両者を高い水準で満たすことが原理的に可能。しかし,円偏光生成手法としての研究はこれまで進められてこなかった。
研究では,円偏光純度と光強度を両立させるための新たなアプローチとして,LPL材料と位相差材料を組み合わせた「発光式円偏光コンバータ」というコンセプトを提案した。
具体的には,まず,発光性一次元ナノ構造体であるCdSe/CdSコアシェル型量子ロッド(QR)を,室温で延伸可能な透明ポリマーであるエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)中に分散させた,QR/EVA複合フィルムを作製した。
このQR/EVA複合フィルムを延伸し,EVAフィルム中でQRを一次元配列させたLPLフィルムを作製した。このLPLフィルムの偏光軸に対して,λ/4位相差フィルムのfast軸が−45˚になるように両フィルムを重ねることにより,左円偏光コンバータを作製した。
450nmの非偏光を励起光として照射した際の発光強度を比較すると,左円偏光成分:右円偏光成分=83:17,すなわち円偏光度PCP=0.66という非常に大きな円偏光度を示した。また,このLPLフィルムにλ/4位相差フィルムを貼合せる角度を−45˚から+45˚に変更すると,偏光度・明るさ・スペクトル形状を維持したまま,右円偏光に変換することができた。
さらに,発光機構(光の足し算)に基づく「発光式円偏光コンバータ」は,例えば,赤色,オレンジ色,黄色発光性の3色のLPLフィルムを,それぞれ3通りの貼合せ角度(−45˚,0˚,+45˚)で積層するだけで,3×3×3=27 通りの光学情報(波長,光強度,偏光の組み合わせ)の作り分けができることを明らかにした。
研究グループは,「発光式円偏光コンバータ」は,既存の円偏光生成方式が抱えるジレンマを解決できる方式だとしている。