東北大学の研究グループは,分子骨格を構築できる新たな光化学反応として,o-ニトロベンジル基を持つビアリールオキシム化合物を用いた分子内環化反応の開発に成功した(ニュースリリース)。
特定の化学反応を任意の場所とタイミングで起こす手法の一つとして,光で誘起される化学反応の利用がある。特に,光化学反応を用いて機能性分子を生体内制御する手法は,生命現象の解明や薬物療法の開発につながるため注目を集めている。
その代表例として,薬物分子を光切断性保護基と結合させ,光照射で活性をOFF-ON制御する光ケージド法が活発に研究されてきたが,より幅広い種類の機能性分子の光制御を実現するために,生体応用可能な光化学反応のレパートリーの拡張が望まれている。
研究グループは,生体応用可能な新たな光化学反応として,o-ニトロベンジル基を持つビアリールオキシム化合物に405nmの近可視光を照射することで,含窒素芳香族複素環であるフェナントリジン環を構築できることを明らかにした。
従来,o-ニトロベンジル基は,光で除去可能な置換基として機能性分子の光制御に幅広く用いられてきた。光切断性保護基として用いられるo-ニトロベンジル基では,一般的にベンジル位の炭素原子とヘテロ原子の間で切断される。
一方,この研究において,o-ニトロベンジル基を結合させたオキシムに光照射したところ,オキシムの窒素-酸素原子間で切断され反応性の高いイミニルラジカルが生成,隣接する芳香環とただちに分子内環化反応を起こし,フェナントリジン化合物が生成することを見出し,これまで見逃されてきたo-ニトロベンジル基の光反応様式の発見に成功した。
これまでにもイミニルラジカルを発生させる方法やフェナントリジン化合物を合成する方法論は多数報告されてきたが,今回見出したo-ニトロベンジルオキシムの光反応性に基づくフェナントリジン環形成反応は,1.水を含む反応条件で効率良く進行すること,2.光触媒をはじめとする添加剤を必要としないことを特長とする。
これらの性質は本光反応が生体応用可能であることを示唆していると考え,次に蛍光性分子の細胞内光構築を試みた。蛍光性を示さない光環化前駆体Aを細胞に投与後,光を照射することで環化反応が進行し,蛍光性のフェナントリジン誘導体Bが細胞内で生成するかを検証した。その結果,細胞内に化合物Aを投与し光照射することで蛍光シグナルが検出され,光反応の進行が確認できた。
この研究成果は,o-ニトロベンジル基のこれまで知られていなかった光化学的側面を明らかにしたもの。研究グループは,新たな光化学反応や光化学ツールの開発につながることが期待されるとしている。