キヤノン,小型テラヘルツデバイスを開発

キヤノンは,世界最高出力と高指向性を両立した「小型のテラヘルツデバイス」を開発したと発表した(ニュースリリース)。

今回同社が開発した新しいデバイスは,テラヘルツ波をより強く,狙った方向により遠くまで送ることができるため,幅広い分野での技術革新と製品開発に寄与し,テラヘルツ波を用いた産業の発展や社会の変革に貢献するというもの。

テラヘルツ波を発生する装置は,高い出力を確保すると発生装置全体が大きくなることが課題となっていたが,同社が開発したデバイスは,共鳴トンネルダイオード(Resonant-Tunneling Diode:RTD)を用いた方式で,半導体とアンテナを一体集積したアクティブアンテナからテラヘルツ波を放射することが特徴。このため,従来方式で使用されていた逓倍器などの部品が不要となり,発生装置において約1000分の1の小型化を実現している。

また,RTDを用いた方式は小型化ができる一方で,出力が低いことが課題となるが,同社は,1個の半導体チップに36個のアクティブアンテナを集積したアクティブアンテナアレイの開発に成功し,全てのアンテナの出力を合成することにより,450ギガヘルツのテラヘルツ波を,従来比で約10倍となる10mWを越える世界最高出力を実現した。

さらに,従来,アンテナから放射されたテラヘルツ波は,拡散し遠くまで届かないことが課題の一つだったが,独自のアンテナ設計技術により全36個のアクティブアンテナを1ピコ秒オーダーの精度で同期させることで,レンズやホーンアンテナなどの光学部品を使うことなく,正面方向の指向性を非同期のアンテナアレイと比べて約20倍改善した。

単一アンテナのデバイスと比べて約20倍となる高い指向性を実現したことにより,数m離れた対象物の撮影や遠距離の通信をコンパクトなサイズのデバイスで行なうことが可能となった。さらに,アクティブアンテナの数が増えることで増加するノイズに対して,独自の高周波フィルタ設計によりノイズを抑制し,電力効率において従来比約1.4倍を実現した。

今回開発したテラヘルツデバイスを用いたリアルタイムアクティブイメージングにより,数m先から歩いてくる人物の衣服の下に隠された武器(拳銃やセラミックナイフなどの刃物)をリアルタイムで検知・識別することが可能となるとし,遊園地やイベント会場など多くの人が通る入口において,高いスループットで人流を止める必要がないセキュリティ対策の実現が将来的に期待されるとしている。

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