名古屋工業大学の研究グループは,超高耐圧シリコンカーバイド(SiC)パワー半導体の性能を決定するキャリア寿命を測定し,高品質SiC結晶では高い励起キャリア濃度においては従来の値よりもキャリア寿命が長いことを発見した(ニュースリリース)。
SiCパワー半導体はその省エネルギー性能のため,電車などのモーター駆動用の半導体デバイスとして普及し始めている。またSiCにより,従来のパワー半導体ではなし得なかった10kV以上の電圧に耐える素子の実現も可能な,将来の電力システムへの応用が期待されている。
ただし10kVを超える電圧においてはSiCパワー半導体を,バイポーラ構造と呼ばれる形で作製しなければ電力損失が大きくなる。一方でバイポーラ構造を有する素子では,キャリア寿命が性能を決定する。
これまでもSiCにおいてもキャリア寿命の測定は行なわれてきたが,バイポーラ構造での限界性能を決める高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命の値については知見が少なく,特に高品質な4H-SiC結晶を用いて高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命を観測した例はなかった。
研究グループは今回,独自に開発した装置を用いて高い励起キャリア濃度でのキャリア寿命測定を可能とし,高品質4H-SiC結晶のキャリア寿命を観測した。その結果,高い励起キャリア濃度であっても比較的長いキャリア寿命を示すことを確認した。
そして得られた結果から,キャリア寿命を決定する因子であるオージェ再結合係数を見積もり,キャリア寿命限界値の励起キャリア濃度依存性を求めた。この結果,5×1018cm-3以上の励起キャリア濃度では,従来考えられてきた限界値よりも長いキャリア寿命が得られることがわかった。
この成果は,高い励起キャリア濃度を注入する構造のバイポーラSiCパワー半導体素子にした場合,低い電気抵抗が得られることを示すもの。したがって,超高耐圧SiCパワー半導体素子の限界性能は,従来考えられてきたものよりも高くできると考えられ,電力システムに適用する低消費電力SiCパワー半導体素子の実現に繋がるとする。
研究グループは今後,超高耐圧SiCパワー半導体素子の実現に向けて,詳細な材料評価および素子作製に取り組む。将来的にはSiパワー半導体素子による電力システムの低消費電力化を目指すとしている。