北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)とデンマーク工科大学らは,単層グラフェン膜で作製した両持ち梁を,0.5V未満の超低電圧で機械的に上下させ,5万回繰り返しても安定動作するNEMS(ナノ電子機械システム)スイッチの開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
半導体微細化の追求に伴い,MOSFETのオフリーク電流によりシステム待機時の消費電力は急増し,現代の集積回路システムにおいてはシステム稼動時の消費電力と同等の電力消費となっている。
現在,スタンバイパワーを低減するために,デバイスレベルではトンネルトランジスタや負性容量電界効果トランジスタなどいくつかの新原理のスイッチングトランジスタが提案されているが,未だ従来のMOSFETを凌駕するオフリーク電流特性の実現には至ってない。
研究グループは,原子層材料であるグラフェンをベースとしたNEMS技術による新原理のスイッチングデバイスを開発してきた。2014年には,2層グラフェンで形成した両持ち梁を静電的に動かして動作するグラフェンNEMSスイッチの原理実験に成功している。
しかし,このスイッチではオン・オフ動作を繰り返すうちにグラフェンが金属表面に張り付く問題が生じ,繰り返し動作に限界があった。
今回,研究グループは,制御電極表面に単層の六方晶窒化ホウ素原子層膜を備えることで,グラフェンと電極間に働くファンデルワールス力を低減させ,スティクションの発生を抑制して安定したオン・オフ動作を5万回繰り返すことに世界で初めて成功した。
また,素子構造の最適化を併せて行なうことでスイッチング電圧が0.5V未満という超低電圧を達成し,従来の半導体技術を用いたNEMSスイッチに比べて約2桁の低電圧化を実現した。同時に,従来のNEMSスイッチでは不可避であったオン電圧とオフ電圧のずれ(ヒステリシス)の解消にも成功した。
5万回を超える繰り返し動作を経ても5桁近いオン・オフ電流比や,電流スイッチング傾き≈20mV/decの急峻性が維持され,それらの経時劣化が極めて小さいことも確認したという。
新型NEMSスイッチは,今後の超高速・低消費電力システムの新たな基本集積素子やパワーマネジメント素子として期待される。さらに,今回の新型スイッチの作製においては,大面積化が可能なCVDグラフェン膜とhBN膜を採用しており,研究グループは,将来の大規模集積化と量産への展望も広がるとしている。