神戸大学と理化学研究所は,藍藻(シアノバクテリア)における光合成のCO2固定代謝が,光照射開始とともにスムーズに始まるメカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。
近年,藍藻に遺伝子改変を施すことでCO2を原料に有用物質を生産する技術が研究されている。藍藻を自然環境下で培養して有用物質生産を安定に行なうには,環境適応能力も維持する必要がある。しかし,環境適応機構には未解明な部分が多かった。
環境適応の一例として,炭素固定は光合成が行なえない暗期では不活性化され,暗期から光が当たって明期になると活性化されることが知られている。しかし,炭素固定の活性化中にどのような代謝変化が起こるのか,暗期から明期になると光合成による炭素固定をすぐに活性化できるのか,十分に理解されていない。
研究では藍藻細胞を暗期から明期へ移した後,秒単位でサンプルを採取することで光合成開始に伴って起こる高速代謝変化を詳しく調べた結果,解糖系の代謝物である3ホスホグリセリン酸(3PG),2ホスホグリセリン酸(2PG),ホスホエノールピルビン酸(PEP)が光照射後,急速に減少することが分かった。
一方,CO2固定を担うカルビン回路のほとんどの代謝物は急激に増加した。このことから光合成活性化時には解糖系からカルビン回路への代謝物の変換が最初に起こることが示唆された。
さらに同位体で標識されたCO2を取り込ませる実験で,光照射後にどの代謝経路が実際に動いているのか調べた。その結果,解糖系やカルビン回路以外の代謝経路(たとえばトリカルボン酸回路; TCA回路など)は光照射直後には不活性であることが分かった。
これらの結果を受けて,光照射後から1分間の代謝物の流れ(代謝フラックス)の変化を計算してみたところ,解糖系の代謝物(3PG,2PG,PEP)がカルビン回路代謝物へと変換され,CO2が付加される代謝物であるリブロース1,5-ビスリン酸(RuBP)が蓄積することが明らかになった。
またその間,徐々にCO2固定反応,すなわちRuBPにCO2が付加する反応が増加することも示された。この解析からCO2固定反応(すなわち光合成)を開始するためにはRuBPの元となる解糖系の代謝物の蓄積が必要だと分かった。
この成果は,環境適応機構において代謝物濃度の適切な維持が重要だと示唆するもの。今後,代謝物濃度やその維持機構に着目することで新たな環境適応機構の解明が期待される。
研究グループは,解糖系代謝物を暗期で蓄積する有用物質生産株を開発することで,明暗環境変化下において迅速な光合成の開始が可能となり,生産量の安定化や効率化が期待されるとしている。