岐阜薬科大学,国立医薬品食品衛生研究所,大阪大学は,子供の脳発達に対する化学物質の影響を「光」を用いた生体イメージングで検出できる手法を開発した(ニュースリリース)。
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動症(ADHD)などの神経発達症(いわゆる発達障害)の原因の一つに発達期の化学物質曝露の影響が懸念されているが,発達神経毒性(DNT)の試験については多くの費用・時間・労力がかかるという問題があり,規定の試験結果から必要と判断された化学物質に対してしか実施されていない。
そのため多くの化学物質については子供の脳発達への影響の詳細が不明なため,より効率的に評価できる検出法の開発が必要不可欠となっている。
神経細胞は未成熟な状態から成熟した状態へと分化し,脳において神経ネットワークを構築するが,そのプロセスが化学物質の影響によって阻害されることがDNTの誘発に繋がると考えられている。
研究グループは,成熟した神経細胞が神経ネットワークを構築する際に重要なシナプス形成に着目し,シナプス構成タンパク質であるSynapsin 1の遺伝子プロモーターの制御下で,生物発光を誘導する酵素,ホタルルシフェラーゼ(Luc)を発現するように設計した遺伝子改変マウス(Syn-Repマウス)を作製した。
Syn-RepマウスにおけるLucの発現について調べたところ,特に記憶,注意,社会的行動等の認知機能を司る脳領域である大脳皮質で高い値を示し,脳以外の臓器ではほとんど検出されなかった。
また脳においてLucの発現パターンは,一般的に知られている脳のシナプス数の経時変化と類似しており,Lucの発現は脳の神経ネットワークの構築状態を反映している可能性が示された。
そこで,胎児期に投与するとASD様の症状を誘導することが知られているバルプロ酸を妊娠Syn-Repマウスに投与し,産まれた児動物の脳の発光量を経時的に生体イメージングで定量解析したところ,非曝露群と比較してバルプロ酸曝露群で脳の発光が低下することが明らかになった。
さらに,大脳皮質の一部にバルプロ酸曝露群で神経細胞数の減少が確認され,Syn-Repマウスの脳の発光は,発達期脳における神経ネットワークの構築状態を反映したものであり,この「光」を用いた生体イメージングを行なうことで,化学物質のDNTを効率的に評価できる可能性が示された。
これにより多くの化学物質のDNTを評価することが可能となる。研究グループは,子供の脳発達に悪影響を与える化学物質を排除することで,より安心して化学物質と共生できる社会構築に貢献することが期待されるとしている。