名古屋大学,日立製作所,日立ハイテクは,フローティングワイヤープラズマへのアンモニア水蒸気導入により,3元金属炭化物(TiAlC)の表面変質層を形成し,この材料を揮発除去するドライエッチングに成功した(ニュースリリース)。
電界トランジスタ構造の技術トレンドでは,fin型から GAA(Gate all around)型への移行が検討されており,ゲート部分の複雑な構造を作製するために,Si(シリコン)以外の材料に Ti(チタン)や Al(アルミニウム)の窒化物が使用されるようになってきた。これら新材料の新たなドライ加工技術の実現を目指し,研究グループでは,一元金属窒化物(TiN等)の原子層エッチング(ALE)に2022年に成功している。
一方,電界効果トランジスタの高集積化と低消費電力化には,トランジスタ構造のGAA型への変更に加えて,ゲート材料にTiやAlの炭化物を利用することが候補に挙がっている。さらに,TiとAlの多元金属炭化物(TiAlC)の必要性と,その実用化のための微細加工技術の研究を研究グループは進めてきた。
原子レベルで加工するために,薬液による溶解除去方法は使用できないため,揮発除去を実現する化学的なドライエッチング方法が必要だった。しかし,複数の物質を精密に混合して得られる薬液では,複雑な組成比の被加工物でも,高選択的に溶解除去ができるが,ドライエッチング方法では,元素ごとに揮発性が異なることが多いため,その化学組成に依らず高選択的に被加工物を除去することが困難だった。
研究グループは,プロセス圧力を通常のドライエッチングよりも上げ,圧力が高い状態でも高密度プラズマ(1015cm3)が生成可能な,独自開発のフローティングワイヤープラズマを活用することで,アンモニア水蒸気のプラズマ生成を高効率に実現した。
これによって,アンモニア水蒸気から生成する主要なラジカル成分(OH(ヒドロキシルラジカル)と NH(イミノラジカル))を,高密度に反応表面に供給することが可能となったという。
さらに,この高密度なラジカル供給により,TiAlC表面に薬液処理と類似の反応を生じさせ,変性層を形成することにより,炭素除去に応じてTiとAlの酸窒化物の構成比を調節することで,揮発性を制御できることが明らかになった。
この成果は,半導体集積回路の最先端電界効果,トランジスタのゲート電極の微細加工形成の基盤技術創生において,世界に先駆けて実現し,その実用化しうるポテンシャルを十分に示唆するもの。
研究グループはこの成果が,ALE技術の発展において重要なマイルストーンを達成したものであり,微細加工技術の飛躍的な技術の進歩を示すものだとしている。