東工大ら,コロナのタンパク質を蛍光抗体で迅速定量

東京工業大学,東京医科歯科大学,中国康復大学は,抗原に結合すると光る抗体断片Q-body(Quenchbody,クエンチ抗体)を,短時間でコロナウイルス量を検出できるバイオセンサーとして用いることに成功した(ニュースリリース)。

これまで研究グループでは,抗体断片に蛍光色素を化学修飾したクエンチ抗体(Q-body)を構築してきた。Q-bodyは,励起光を照射したときの蛍光強度の変化を見ることで、ウイルスを構成する物質の有無や量を検出できる。

研究では,ウイルス表面にあり感染に重要な役割を果たすS1タンパク質に対して強く結合するヒト型組み換え抗体A7を取得した。A7から抗体断片Fabを構築し,その2箇所のN末端をATTO520という蛍光色素で修飾してQ-bodyを構築したところ,疑似ウイルス粒子と混合してから2分後に,1mLあたり105コピーという低濃度から蛍光検出した。

しかしながら,S1タンパクを標的とした検出は,ウイルスの株変異にうまく対応できない場合もある問題にも直面した。そこで,変異体ウイルスにおいても変異が入ることが少なく,患者サンプル中にはSタンパク質より多く含まれるとされるRNA結合(N)タンパク質に対するQ-bodyの構築を試みた。しかし,創出した抗体は結合反応がやや遅く,A7由来Q-bodyより長めの検出時間を要した。

一般に,溶液中で抗原抗体反応などのタンパク質間相互作用をさせる場合,溶液に適した高分子を加えることで両タンパク質の水中における有効濃度を向上させ,反応速度を加速可能なことが知られている。そこで今回,Q-bodyにいくつかの高分子を加えて検討した結果,平均分子量6,000のポリエチレングリコール(PEG6000)を5%加えることで,反応を有意に加速させることに成功した。

今回構築したNタンパク質検出用Fab型Q-bodyを用いて,0.3nM以下の新型コロナウイルスNタンパク質の5分程度での検出が示された。また,ポータブル蛍光測定装置を用いて臨床サンプルの測定に成功した。

実現された検出感度は通常のイムノクロマト法による抗原検査キットとほぼ同等だが,検査に必要な手技と通常15分以上とされる反応時間が少ないことから,測定の定量性と再現性はより高いという。

Q-bodyは,消光されている蛍光色素が抗原との結合によって蛍光回復するという,他とは異なる検出原理に基づいている。研究グループは,今後同様の方法を用いて,多くの細胞内抗原検出系を創出できると期待している。

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