奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の研究グループは,次世代の柔軟で丈夫な超薄型半導体に仕立てられるポリマー(高分子化合物)半導体の研究を行ない,導電性を生み出す「n型」のポリマー半導体を「配向フローティング(浮遊)薄膜」という実用性の高い素材として作製することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
ポリマー半導体は,数ある半導体材料の中で最も曲げや引っ張りに強いことから,未来の超フレキシブル電子回路に活用されることが期待されている。しかし,省エネで高速に作動するため,様々な半導体集積回路の基本要素になっているCMOS(相補型金属酸化膜半導体)回路を,ポリマー半導体で置き換えるには課題が残されていた。
CMOS回路は自由電子を持つn型半導体と,電子の抜け殻である正孔を持つp型半導体がそれぞれチャネル(電流が流れる層)を形成して電流を調節するトランジスタ(電界効果トランジスタ,FET)を組み合わせて構成しているが,ポリマー半導体を使う場合,
①2種類以上のポリマー半導体薄膜を同一基板上に形成しなければならず,従来の溶液による塗布法では,ポリマー薄膜を積み重ねる際に先に形成された薄膜を溶かしてしまう
②すでに高性能なものが得られているpチャネル型FETと比較して,同等性能のnチャネル型FETが得られていない
という2点を解決する必要があった。
①の課題については研究グループが開発した「一方向性フローティングフィルム・トランスファー法」(UFTM)が基板上で溶液を直接塗布せずに転写することから有効であることがすでに予想されていた。
そこで,今回は②の課題を解決するために,nチャネル型FETに用いられるn型ポリマー半導体分子が一方向に整然と並ぶ形で高度に配向した薄膜をUFTMを用いて成膜し,FETを作製することに挑戦した。
その結果,自己凝集能力が高い傾向にある高性能n型ポリマー半導体材料に対してUFTMを最適化し,電極から電子を注入するときの障壁を下げて理想的なnチャネル型FET特性を得る方法も同時に開発することで,実用的な性能を持つnチャネル型FETの動作実証に成功した。
この薄膜は,ナノメートルオーダーの極めて薄い膜であり,液体の表面に形成されるので,様々な基板の上に墨流しのように転写することができるという。さらに,この方法によって,高性能なnチャネル型トランジスタが実現されることも実証した。
研究グループは,この成果により,超フレキシブルCMOS回路の実現に一歩近づいたとしている。