産業技術総合研究所(産総研)と筑波大学は,植物が作り出すカフェ酸の薄膜層を有機半導体デバイスの電極表面に形成することで,電極から有機半導体への電荷の注入効率が向上し,デバイスに流れる電流を大きくできることを発見した(ニュースリリース)。
有機半導体デバイスの性能の向上に重要である異なる材料が接する界面の制御,特に有機半導体と電極の接合界面(以下,有機半導体/電極界面)での電荷の注入(移動)の効率を高める技術の開発が求められている。
現在,電荷を流しやすくする電極修飾層として,導電性ポリマーや遷移金属酸化物の薄膜層が知られている。しかし,これらの材料は有機半導体デバイスを廃棄した際,環境に悪影響を及ぼす可能性がある。また,希少金属元素を含んでいることも懸念されている。
そこで,有機半導体/電極界面の電荷の出入りを効率化し,電極修飾層に応用可能かつ環境負荷の低い材料として,研究グループは今回,金属に吸着する性質を示すカテコール基を有したフェニルプロパノイド群の分子を使った電極修飾技術を開発した。
多くの有機半導体デバイスは,電極基板の上に有機分子の層や電極を積層して作られる。デバイスに流れる電流を大きくするには,電極から有機半導体への電荷の注入を効率化することが重要となる。
大きな永久双極子モーメントを持った分子で電極表面を修飾すると(電極修飾層),電極表面の電位が変わり,電荷の注入に関する効率化の指標である仕事関数が変化する。
電極の仕事関数を大きくすることで,電極のフェルミ準位が有機半導体のHOMO(電荷を受け取るエネルギーレベル)に近づき,電極から有機半導体への電荷の注入が促進される。その結果,有機半導体/電極界面において電流が流れやすくなる。
そこで研究グループは,電荷の注入の効率化のため,大きな永久双極子モーメントを持った分子として,植物が作り出すフェニルプロパノイドと呼ばれる物質群に着目した。
フェニルプロパノイドは,活性酸素を除去する機能(抗酸化作用)を持ち,植物に普遍的に存在する。フェニルプロパノイドの中には4デバイを超える大きな永久双極子モーメントを持つ分子がある。カフェ酸はビニレン基(-CH=CH-)にカルボキシ基(-COOH)とカテコール基が結合した構造と永久双極子モーメントを持つ。
電極表面にカフェ酸の薄膜層を形成すると,電極表面でカフェ酸分子が自発的に向きをそろえて並び,有機半導体デバイス(単層)に流れる電流が,カフェ酸が無い場合と比べて最大で100倍に増加した。カフェ酸が特異な配向を示すことで,有機半導体への電荷の注入が促進したと考えられるという。
研究グループは,IoT社会を支える有機半導体デバイスに,この研究で提案した電極修飾技術を応用することを目指すといている。