理化学研究所(理研),シンガポール南洋理工大学,東京大学は,開発した厚さ約1.3μmの伸縮可能な導体が皮膚および臓器(神経)へ良好に密着し,生体情報を取得するためのセンサー用電極として使用可能であることを実証した(ニュースリリース)。
皮膚や臓器への適合性や接着性が高い超薄型かつ伸縮性のセンサーには,安定した導電性を維持しながら,引張ひずみ100%以上の伸縮性を持つ導体が必要になる。このアプローチの一つに,薄い弾性基板に金属の「マイクロクラック構造」の作製がある。
マイクロクラック構造では表面に微細なクラック(亀裂)が入っており,引張ひずみを加えたときにそのクラックに沿って金属が伸びて金属破断の発生を防ぐ。しかし,マイクロクラック構造に基づく極薄伸縮性導体の作製ための合理的な設計手法はこれまでなかった。
研究グループは,厚さ約1.2μmのシリコーンゴムのポリジメチルシロキサン(PDMS)基板上に,導電層として厚さ約50nmの金を成膜した,総膜厚約1.3μmの弾性導体を作製した。この導体は,導電率を失うことなく最大300%の引張ひずみまで伸ばすことができる。
PDMSと金の熱膨張率の違いにより金の熱蒸着中にPDMS層は熱膨張して変形し,成膜された金にマイクロクラック構造が形成される。この変形は厚さ約1μmのPDMSでは十分な膨張が発生せず,金マイクロクラック構造は形成されない。
そこで研究グループは,厚さ約100μmの厚いPDMSサポート層を厚さ約1μmのPDMSの下に挿入し,金を蒸着させた。薄いPDMS基板と接触している厚いPDMS層によって十分な熱変形が起き,薄いPDMS上に金にマイクロクラック構造を形成した。
極薄伸縮性導体を皮膚上の心電図計測用の電極として利用する実験では,金電極表面を薄い粘着性のイオン導電性ポリマー層でコートすることで,極薄伸縮性導体と皮膚の間の接着性を大幅に改善し,手を洗った後や激しい運動の後,8時間連続着用後でも,心電図信号を継続的かつ安定的に記録できた。
最後に,極薄伸縮性導体が体内に埋め込み可能なニューラルインターフェースとして利用できるか検証したところ,極薄伸縮性導体は,ラットの神経と良好なインターフェースを形成した。
極薄伸縮性導体は神経などの体内の臓器へ隙間なく強固に密着することで,電気刺激伝達や生体信号記録の双方の性能を向上させることが明らかになった。
これにより,皮膚上で安定に機能する生体信号取得センサーおよび、体内埋め込み可能なニューラルインターフェースとして利用できる。研究グループは,ソフトロボティクスやMEMSなどの他の分野においても,有望なアプリケーションを見つけられる可能性があるとしている。