物質・材料研究機構(NIMS),米ハーバード大学,米コネティカット大学は,気体を流入させるとその性質に応じて発色する簡易デバイスを設計・作製し,気体を色によって識別できることを実証した(ニュースリリース)。
気体の可視化は基礎研究のみならず応用面においても重要な課題だが,空気がそうであるように,ほぼ全ての気体は無色透明であり,目に見えない。これまで可視化は,主に自由空間における気流を対象に,ごく限られた手段によって達成されていた。
例えば,赤外線カメラを用いた温度変化に基づく方法や,トレーサー粒子と呼ばれる微粒子を気中に分散させる方法などだが,いずれも特殊な装置を必要とする。「任意の」気体を一様に可視化することはもとより,可視化した画像から気体特性の分析などを行なうことは困難だった。
研究グループは,気体の種類を選ばずに可視化し,分析までできる簡易な手法は,ビジュアルベースの各種計測技術など,多様な展開につながると考えた。そこで今回,ポリジメチルシロキサン(PDMS)という柔軟な材料を板状に成形し,片面の一部をアルゴンプラズマ処理し,その面をガラス基板と密着させるだけという簡易な方法により,多様な色(構造色)に基づく気体可視化・識別デバイスを作製した。
このプラズマ処理はPDMS内部の架橋を促進するため,その最表面には,未処理のPDMSと比較して数百倍以上も硬い膜が形成する。この上下に硬さの大きく異なる二層構造に圧縮力が印加されると最表面が特異的に変形し,周期的なひだ状の構造を形成する。この周期長が可視光の波長(380~780nm)に近い値(数百nm~数µm)をとるため,構造色が発現する。
この原理は,あらゆる気体の可視化・識別に適用可能。また,気体の流入を止めると色は完全に消失するため,オンオフ可能なディスプレイ技術へ応用できる可能性もある。
この構造変化は気体の流量,粘度,密度に依存する。特に全ての気体は固有の粘度と密度を有するため,一定流量下での発色は気体種に特有となり,これにより気体の識別・分析が可能なため,気体計測がカバーする,環境,安全,ヘルスケアなどの諸分野への展開が期待されるという。
研究グループは今後,環境ガスや生体試料の識別などを究極的な目標に据え,デバイスの感度向上・最適化に取り組みたいとしている。また,画像認識や機械学習と組み合わせた識別手法の確立や,CCDなどを用いた簡易構成の小型デバイス作製についても検討していく予定だという。