大阪大学の研究グループは,これまで発表された中で最も短い波長の蛍光を発するβバレル型蛍光タンパク質 「Sumire」の開発に成功した(ニュースリリース)。
オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(avGFP)の多色化は細胞内における複数因子の同時観察に必須だが,蛍光波長の短い青色側の蛍光タンパク質は,研究グループが開発した群青色蛍光タンパク質から10年以上更新されていなかった。
これまでに開発された短波長側のavGFP改変体の多くは,発色団を構成するチロシンを他の芳香族アミノ酸に置き換えることで発色団中のπ共役系を狭小化し,蛍光色を短波長にシフトさせていた。
しかし,天然のタンパク質中に存在するチロシン以外の芳香族アミノ酸,トリプトファン,ヒスチジン,フェニルアラニンは既に利用されており,芳香族アミノ酸の置き換えによる,これ以上の多色化は困難だった。そこで研究グループは,蛍光タンパク質の発色団に対する水分子の付加を利用した蛍光波長の改変を試みた。
発色団を構成する五員環部分に水分子が付加すると,五員環の一部がπ共役系から外れることで吸収波長が短くなる。このような水分子が付加した発色団については,一部報告があったが,そのままでは蛍光量子収率が小さく高い強度で蛍光を発することができなかった。
研究では,avGFPの改変体であるSuper folder GFP(sfGFP)に対して9カ所の遺伝子変異を加えることにより,水分子が付加した発色団の蛍光量子収率を改善した。加えて,発光色を短波長化するための改変も行なった。
GFP発色団を構成するチロシンのフェノール性水酸基は,蛍光タンパク質中で電離型,非電離型の二つの状態を取り,本来は非電離型の発色団の方が短い吸収・蛍光波長を持つ。しかしavGFPやその改変体では,非電離型の発色団が励起状態プロトン移動(ESPT)によって瞬間的に電離し,蛍光波長が長波長側にシフトする。
そこで,発色団を非電離型に保つとともに,ESPTの発生を抑え蛍光波長の長波長化を防ぐアミノ酸変異を導入した。これらの工夫によりSiriusよりも短い波長の蛍光を発し,かつ3倍以上明るい蛍光タンパク質を開発した。この蛍光タンパク質はそのスミレ色の蛍光色にちなみ「Sumire」と名付けられた。
また,カルシウムプローブvgCamを作成した。vgCamの吸収波長は既存の蛍光タンパク質と大きく異なり,他の機能性プローブと同時に細胞内に発現させても容易にシグナルを分離できる。研究では,生きた細胞内におけるカルシウムイオンとATPの濃度変化を同時に観察可能であることを示した。
研究グループは,Sumireを用いたFRET型プローブを既存のプローブと同時に利用することで,様々な生命現象に伴う細胞内環境変化の因果関係を解明できるとしている。