熊本大,電解反応途中のプロトン濃度を可視化

熊本大学の研究グループは,厚さが約1nmのチタンニオブ酸化物ナノシート(TiNbO5)と希土類イオン(Eu3+,Tb3+)からなる混合体(以下,TiNbO5ナノシート/Eu3+,Tb3+混合体)について,紫外線照射下の発光色が溶液中のプロトン濃度(水素イオン濃度)に応じて変化することを明らかにした(ニュースリリース)。

ミクロな世界では,環境の変化に応じて物性値が敏感に変化するようなナノ材料が新たに必要となる。一部の発光体は,周囲の温度や圧力,特定のイオン濃度に応じて発光強度が変化するため,ナノメートル単位の環境センサーとなる。

発光体の材料としては,有機分子に発光中心を配位させたものが多く,紫外線照射下の安定性や機械的強度に課題があった。そこで研究グループは,無機ナノ材料の一つである遷移金属酸化物ナノシートに注目し,プロトン濃度(水素イオン濃度)に対しマルチカラーに呈色する発光体の開発を目指した。

遷移金属酸化物ナノシートは,遷移金属原子と酸素原子からなる厚さ約1nmの板状結晶が数μmに渡って横方向につながった構造を有している。研究で使用したチタンニオブ酸化物(TiNbO5)ナノシートでは,チタン,ニオブ,酸素の3種類の原子が厚さ0.7nmの平面状に広がっている。

TiNbO5ナノシートはマイナスの電荷をもっているため,ユウロピウムイオン(Eu3+)やテルビウムイオン(Tb3+)といったプラスの電荷をもったイオンと混合すると,イオンがTiNbO5ナノシート間にサンドイッチのように挟まれた構造体を形成する。

TiNbO5ナノシート/Eu3+・Tb3+混合体を酸性(pH2),中性(pH6),アルカリ性(pH12)水溶液中にそれぞれ加え,紫外光を照射した場合,酸性中ではTb3+による緑色が,またアルカリ性ではEu3+による赤色が強く呈色する。

中性水溶液では,中間色である黄色~オレンジ色を呈す。このとき,TiNbO5ナノシートは紫外光照射下で吸収したエネルギーを発光中心であるEu3+・Tb3+イオンに提供する役割を果たす。さらに,TiNbO5ナノシート/Eu3+・Tb3+混合体に電解質としてNa2SO4を加えることで,電解反応中のプロトン濃度の可視化を試みた。

この場合,還元極では2H2O+2e→2OH+H2(プロトン濃度低下),酸化極では2H2O→O2+4H++4e(プロトン濃度増加)の反応が起こると予想できる。2枚の電極板(Pt板)の間にTiNbO5ナノシート/Eu3+・Tb3+混合体を充填し,2.0Vの電圧を印加した場合,電解開始より10分後,32分後の様子では,還元極では黄色から赤色に,酸化極では黄色から淡い緑色に変化した。これは,還元極においてOHイオンが,酸化極においてH+イオンが生じたことを示しており,先述の予想と合致する結果だとする。

研究グループは,このプロトン濃度の可視化技術を用いることにより,無機ナノ材料中のプロトン伝導メカニズムの解明が進み,水電解セルや水素燃料電池開発を支える優れたプロトン伝導膜の開発につながるとしている。

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