神戸大学の研究グループは,クロロホルムを原料とする新たなフロー光オン・デマンド合成システムの開発に世界で初めて成功し,このシステムを使って,高変換効率(96%以上)かつ短時間(露光1分以内)で,クロロホルムからホスゲンを原料とする化学品合成を達成した(ニュースリリース)。
研究グループは,クロロホルムに極めて高い毒性を持つホスゲンと反応させるための反応基質や触媒をあらかじめ溶解させておき,光でホスゲンを発生させると,即座にそれらが反応して生成物が得られる手法を発見している。
この方法では,あたかもホスゲンを使用していないかのように,ホスゲンを用いる有機合成を実施することができる。研究グループはこれを「光オン・デマンド有機合成法」と命名し,これまでに数多くの有用な有機化学薬品やポリマーの合成に成功してきた。
今回の研究では,クロロホルムの光酸化反応に適したフロー光反応システムを新たに設計し,流路の形状や材質,および光源などを種々検討して,装置を作成した。このシステムでの実験において,クロロホルムと酸素の光反応が,従来までの液体と気体の不均一な状態ではなく,両者が気体の状態で効率的に進むことを突き止めた。
気化させたクロロホルムと酸素の混合ガスに紫外光を照射すると,ほぼ定量的にホスゲンへの変換反応(96%以上)が生じ,さらに同じ系内でアルコール(必要に応じて塩基触媒を添加)と連続的に反応させることによって,クロロギ酸エステル,カーボネート,およびポリカーボネートを高収率かつグラムスケールで連続合成することに成功した。
系内で反応を完結させることによって,系外でのホスゲン非検出も達成した。塩基触媒として,塩化水素と反応してイオン液体になるN-メチルイミダゾール(NMI)を用いたところ,溶媒を用いずにカーボネートを合成することができた。
研究グループは,安全かつ簡単に,小規模から大規模まで,様々な化学品合成に利用できるこのシステムをベーシックモデルとして,個々の化学反応に適した装置のカスタマイズを行ない,また製造規模に応じたプロセス開発を行なうことによって,工業生産における実用化が期待されるとする。
また,大量生産を目的とする製造だけでなく、小中規模で多品種の生産を必要とする化学薬品製造メーカーにも,大きな恩恵が予想されるという。さらなるスケールアップが可能であり,アカデミアから化学産業まで幅広い分野での利用が期待されるとしている。