九州大学,青山学院大学,富山大学,北海道大学,大阪大学は,世界有数の大型レーザーである大阪大学レーザー科学研究所の激光XII号を用いて,高エネルギープラズマ中で,太陽フレアと同様,磁力線が繋ぎ替わるとともにプラズマが加熱・加速される様子と,局所的なプラズマ挙動を計測することに成功した(ニュースリリース)。
磁力線再結合(磁気リコネクション)は,太陽フレアや地球磁気圏,核融合プラズマ等,様々なプラズマ中で普遍的に観測され,磁場からプラズマへのエネルギー変換,宇宙線(高エネルギー荷電粒子)の加速や,核融合プラズマの閉じ込め悪化を引き起こす。しかしその現象を完全に説明できる理論はまだ無く,磁力線が繋ぎ替わるメカニズムやどのようにエネルギー変換が決まるのかなど多くの点が未解明だった。
研究では,大型レーザー装置を用いて,磁気リコネクションを引き起こすような反平行な磁場配位を高エネルギープラズマ中に生成した。高出力レーザーを集光照射することで,プ
ラズマ中に周回状の磁場が自己生成される。異なる二点に照射することで,その間には逆向きの磁場をもつプラズマが生成される。
そしてこのプラズマ中に別の低エネルギーな計測用レーザーを集光照射して,プラズマ中の電子による散乱光を異なる二方向から分光計測した。プラズマ中の自由電子からの散乱はトムソン散乱と呼ばれ,この光のスペクトルを詳細に解析することで,プラズマが持つ温度,速度,イオン価数,局所的な電流やプラズマ流の速度を求めることができる。
計測は,計測用レーザーの入射方向と散乱光が作るベクトル差で決まる方向に沿ったものになる。計測の結果,反平行磁場に垂直な方向には電子とイオンに異なる速度,つまり電流が計測され,時間とともにこの電流が減少して消失する様子が観測された。これは磁場が繋ぎ替わったことを意味するという。
それと同時に,磁場に平行な方向には,プラズマを構成するイオンの速度分布を求めることができ,プラズマが加速・加熱されている結果を示唆するものだった。このように,レーザー宇宙物理実験において,初めてプラズマ粒子(イオン)の速度分布関数を計測し,磁気リコネクションに関わる電流構造,プラズマ加速・加熱を同時に計測することに成功した。
このシステムを用いることで,磁力線が繋ぎ替わる微小領域における粒子運動や,磁場からプラズマを構成する電子・イオンへのエネルギー分配を詳細に調べることができる。研究グループは,これまで未解明であった速い磁気リコネクションの駆動メカニズムやエネルギー変換過程の解明に役立つことが期待されるとしている。