関西学院大学,熊本大学,チェコ科学アカデミー,英グラスゴー大学は,カロテノイド色素を生合成しない紅色光合成細菌のアンテナタンパク質複合体に,高等植物由来のカロテノイド色素を再構成して人工光合成アンテナタンパク質の作成に成功,エネルギー移動効率を調査した(ニュースリリース)。
太陽光エネルギーを効率よく利用している天然の光合成系は,クリーンエネルギーの利用という点で近年非常に注目されている。紅色光合成細菌の光合成系では,光合成膜にあるアンテナタンパク質複合体中のカロテノイドが太陽光エネルギーを捕集し,その後,別の光合成色素である,バクテリオクロロフィルに捕集したエネルギーを伝達する。
バクテリオクロロフィルはそのエネルギーを反応中心に伝達し,反応中心では伝達されたエネルギーを利用して電荷分離を起こし,その際生じる高エネルギー電子を用いてATP(生体エネルギー)の合成が行なわれる。
この過程の中で,カロテノイドからバクテリオクロロフィルへのエネルギー伝達は30~90%という効率で行なわれており,この機構を人工的に作成・利用する研究・開発が行なわれている。
今回の研究では,分子内電荷移動(ICT)励起状態を持つカロテノイド色素を,カロテノイド色素(Car)を生合成しない紅色光合成細菌のアンテナタンパク質複合体に再構成し,新規光捕集アンテナタンパク質複合体を創成した。
定常状態の分光測定から,創成したアンテナタンパク質複合体は,Carからバクテリオクロロフィル(Bchl)への励起エネルギー移動効率が79±1%であることを発見した。これは,天然におけるCarを持つ同種の光合成細菌の励起エネルギー移動効率,28%をはるかに超えるもの。
エネルギー伝達機構を,フェムト秒並びにサブナノ秒時間分解分光測定を行ない,時事刻々と変化する過渡吸収スペクトルをグローバル解析並びにターゲット解析を行なうことで,エネルギー移動過程を詳細に調査した。
その結果,創成したアンテナタンパク質複合体では,カロテノイド色素の第一励起(S1)状態とICT状態とがカップリングした,S1/ICT状態から主にエネルギー移動していることを解明した。
この研究は,ICT状態の特性を利用することにより,今までのCar→Bchlへの励起エネルギー移動効率をどのように超えるかという戦略を明確に示唆するもの。研究グループは,今後の人工光合成研究に大きく貢献することが期待されるとしている。