分子科学研究所,独フリッツ・ハーバー研究所,大阪大学は,超短パルスレーザーを用いた超高速走査トンネル顕微鏡の最新技術を応用し,物質表面における電子や格子の量子ダイナミクスを10-15秒,10-9メートルという極微スケールで直接観察する手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
物質を構成する電子,原子核の構造とダイナミクスを直接見ることは,物質の成り立ちを知る上で重要だが,その構造と運動のスケールは10-9メートル,10-15秒以下という極微の世界となっている。
ナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野でのモノづくりはそのような極限的な時空間スケールに到達しようとしており,そのため,原子スケールの極微の世界を直接観察できる計測手法の重要性が増している。それによって物質の量子論的な構造と運動(ダイナミクス)を理解し,さらに制御していくことが期待されている。
今回,研究グループは光走査トンネル顕微鏡,量子プラズモニクス,超短パルスレーザーの技術を融合し,極限的な時空間分解能をもつ計測法の開発に成功した。この先端計測によって物質表面における電子や原子核の量子ダイナミクスを10-9メートル,10-15秒オーダーの分解能で観察することを可能とした。
発表論文中で研究グループはこの新しい先端計測を応用し,原子スケールの厚みをもつ酸化物超薄膜において量子論的な格子振動を実時間で直接観測するコヒーレント振動分光が可能であることを示した。
さらに,物質の物性を決める重要な物理パラメータである電子状態を原子スケールの空間分解能で観察できる走査トンネル分光と組み合わせることによって,電子状態と格子の量子ダイナミクスとの間にあるミクロな相関を可視化した。
パソコンやスマートフォンに用いられる半導体素子の微細加工は10-9メートルオーダーに到達しつつあり,原子スケールの時空間分解能で物質を計測することの重要性は増している。研究グループは今回の成果について,そのような極微な世界における量子構造とダイナミクスの理解と制御に向けた基礎研究でさらなる応用が期待されるとしている。