物質・材料研究機構(NIMS),北海道大学,山口大学は,巨大タンパク質や天然ゴムなどに匹敵する100万を越える分子量を持つ超高分子量ポリマーと不揮発なイオン液体からなる自己修復ゲル材料を,極めて簡便に創製する手法を開発した(ニュースリリース)。
自発的に損傷部分を修復することで耐久性を向上させる自己修復高分子材料は,循環型経済の観点から大きな注目を集めている。近年,例えば水素結合の様に可逆に結合・解離を繰り返す特殊な官能基を高分子ネットワークに導入するといった化学的なアプローチによる研究が盛んに進められているが,そのような自己修復材料ではしばしば精密な合成手法や複雑な製造プロセスを要求される場合があった。
一方で,高分子鎖の絡み合いといった高分子材料が普遍的に持つ特徴を利用した物理的アプローチによる,汎用性のより高い自己修復高分子に関する研究は殆ど行なわれていなかった。
今回研究グループは,イオン液体中では重合反応が効率良く進む特性を利用することで,非常に分子量が高い高分子の絡み合いから形成される「超高分子量ゲル」を簡便に創製する手法を見出した。
研究グループは,イオン液体中ではラジカル重合が効率よく進行し,超高分子量ポリマーを非常に簡便に合成できることを発見した。通常の揮発性有機溶媒(トルエン)中のポリメタクリル酸メチル(PMMA)の重合では,重合開始剤を減少させると分子量の増加とともにモノマー転化率の減少が起こり,到達する分子量は10万程度にとどまる。
一方,イオン液体中では重合開始剤を極めて低濃度にしてもモノマー転化率がほぼ100%を維持し,超高分子量(分子量>100万)に達することを見出した。その結果,通常の高分子ゲルのように化学架橋剤を加えることなく,ラジカル重合開始剤を極低濃度にするだけで,イオン液体中で重合された超高分子量ポリマーの物理的な絡み合いによって透明で自立したゲルが得られた。
化学架橋剤を用いた従来のゲルと比較して,この超高分子量ゲルは優れた力学特性を示し,熱成型によるリサイクルも可能となる。さらに超高分子量ゲルは室温で高い自己修復機能を示した。
リサイクル性および自己修復性を持つゲル材料を簡便かつ汎用的な方法で創製できるこの成果は,循環型経済の観点から重要であるという。研究グループは,不揮発・不燃性なイオン液体を溶媒とする高分子ゲルは,フレキシブルエレクトロニクスに用いる安全なイオン伝導材料として有望視されるとしている。