北海道大学の研究グループは,超高解像度テレビ用材料の高い電子移動度の起源を解明した(ニュースリリース)。
透明酸化物半導体は,可視光線に対して無色透明であるにも関わらず,キャリア電子を導入することにより半導体の材料であるシリコン(Si)のように電子伝導性が制御できるようになる材料として知られており,現在,有機ELテレビやタブレットPC,スマートフォンの画面を駆動するために広く応用されている。
数多く知られている透明酸化物半導体の中でも,ITZOは,現在の有機ELテレビなどに応用されているIGZOの5倍以上の高いキャリア電子移動度を示すことから,超高解像度テレビ用の材料として期待されている。
今後,さらに高解像度で綺麗なディスプレーを実現するためには,高いキャリア電子移動度を示す透明酸化物半導体が必要となる。そのための材料設計指針を得るためには,まず ITZOの高いキャリア電子移動度の起源を明らかにする必要があった。
研究では,研究グループ独自の熱電能電界変調法により,ITZO薄膜及びITZO薄膜トランジスタの熱電能を計測・解析した。具体的には,キャリア濃度の異なるいくつかのITZO薄膜を作製し,その電子輸送特性(Hall移動度,体積キャリア濃度,熱電能)を計測した。
また,ITZO薄膜トランジスタを作製し,そのトランジスタ特性の計測と,熱電能電界変調法によるトランジスタ特性の解析を行なった。
その結果,①ITZOのキャリア電子の有効質量がIGZOよりも30%ほど軽いこと,②ITZOのキャリア緩和時間がIGZOの4倍長いこと,③伝導層の厚さが10nm以上に厚いことが,ITZOの高い電子移動度の起源であることが分かった。
この成果は,ITZOがIGZOの5倍以上のキャリア電子移動度を示す起源をはっきりと示すもの。今後,化学組成の異なる透明酸化物半導体薄膜トランジスタにも適用することで,キャリア電子有効質量の低減とキャリア緩和時間の増加を両立する材料の発見に繋がる可能性があるという。
研究グループは,電子移動度が100cm2/Vsを超える,超高移動度の透明酸化物薄膜トランジスタ実現に向けた大きな前進だとしている。