慶應義塾大学の研究グループは,弾性表面波デバイスの表面で起こる極めて小さな振動現象の変位を,1兆分の4メートルの精度で定量的に決定することに成功した(ニュースリリース)。
弾性表面波デバイスは携帯電話やスマートフォンに内蔵されており,不要な周波数成分をカットするためのフィルターとして活用されている。さらに近年では,電子スピンを操作する目的で弾性表面波デバイスが活用されており,次世代の磁気デバイスとしても有望視されている。
弾性表面波デバイスでは,デバイス表面上をレイリー波が伝搬する。レイリー波の伝搬時に,デバイス表面が何メートル振動しているのか(変位しているのか)を正確に計測することは,デバイスの性能評価をする上で重要となる。
このような表面変位量計測には,これまでレーザー干渉計が用いられてきた。レーザー干渉計では,デバイス表面の振動量を振動している表面からの反射光の干渉計測によって電圧信号として観測する。しかし従来のレーザー干渉計では,デバイス表面からの反射光と,光学系のその他の部分で反射した反射光を分離することが困難なため,計測量の定量性が損なわれるという問題がしばしば生じていた。
今回研究グループは,複数の波長の光の干渉計測が同時に実現できるデュアルコム干渉計を用い,観測したい反射面からの信号のみを分離抽出することで,測定の定量性を向上させた。さらに,同じ光学経路をお互いに逆方向に通る 2 つの光の位相を比較するように光学系を工夫することで,光学経路の不安定性の影響を除去した,計測の不確かさの小さい測定系を実現した。
これらの工夫の結果,デュアルコム干渉計では最高精度である4ピコメートルの精度で,弾性表面波の振動量を決定することに成功した。
研究グループは,弾性表面波を利用した新しい磁気デバイスの研究に焦点をあてた研究を進めているという。今後,デバイス表面の定量的な振動量から磁気生成量を見積もり,その効率を調べることで弾性表面波励起による磁気励起の起源を明らかにする取り組みを進めていくとしている。