矢野経済研究所は,モーションキャプチャシステム世界市場を調査し,地域,国別や参入企業各社の動向,将来展望などを明らかにした(ニュースリリース)。
モーションキャプチャは現実の人物や物体を対象として,その動作をデジタルデータに変換する。関節等の身体動作の特徴となる部位の位置と動きをカメラやセンサーでキャプチャ,トラッキングし,デジタルデータに変換・記録することで,動作を数値的に可視化することが出来る。
モーションキャプチャを実現するシステムは,主に複数台のカメラで測定対象の人や物に装着したマーカーの位置を追跡する光学式や,対象にセンサーを内蔵した反射マーカーを装着し,体の動きを計測する慣性式,対象に磁気コイルを装着し,磁界内での動きを装置でキャプチャし記録する磁気式の大きく3タイプが存在する。各タイプとも異なる方法で,モーションキャプチャを実現させている。
モーションキャプチャシステムは,エンターテインメントやスポーツ,医療などの分野で既に使用されている。また,デジタルデータを用いた映像制作へも利用可能なことから映像業界等でも活用されており,2022年のモーションキャプチャシステム世界市場規模(事業者販売金額ベース)は前年比110.0%の816億2,000万円を見込む。
タイプ別に市場をみると,光学式が最も開発が進んでいるという。データの精度や汎用性,拡張性,対象(被験)者への負担等が他タイプに比べて最も優れており,現時点で主流の方式となっている。
今後はハードウェア・ソフトウェアの更なる発展,高性能化を期待した活用や,マーカーレスといった新しい技術での新領域分野の開拓,活用されている分野内の継続した需要拡大が考えられるという。
慣性式は,マーカーを装着した対象者の行動範囲の制限がないメリットがあるが光学式よりもデータ精度が低い欠点がある。今後は,光学式同様に技術の発展や新領域の分野にメリットを活かして拡大していく模様だとする。
磁気式は磁界内に障害物があってもトラッキングが可能なメリットがある一方で,キャプチャ可能な範囲が狭く行動範囲が制限される。そのため,特に活用されている医療分野以外では手指のみの細かい動作をキャプチャする等,メリットを活かした使用方法の提案が必要とされる。今後,さらに活用範囲を広げるために最優先すべきは,どの業界からも必要とされる技術等の必須性を持つことだとしている。
調査では,エンターテインメント分野に注目した。対象物の動作の計測だけでなく,映像関連の3DCG制作手法としてモーションキャプチャシステムが活用されているエンターテインメント分野は,モーションキャプチャシステム市場が確立された要因の1つと言っても過言ではない分野だとする。
特に海外では,3DCGを用いた映画制作にモーションキャプチャシステムが活用されていることや,映画に限らずテレビ,ミュージックビデオといった映像関連に対しても今後もモーションキャプチャシステムが活用されることで,需要の拡大が期待できるという。
エンターテイメント分野の国内モーションキャプチャシステム市場は,現状,映像制作に強い光学式のシステムが大部分を占めている。また,慣性式のシステムがエンターテインメント分野向けにソフトウェア含め更なる技術開発が期待されており,徐々に数量シェアを高めていくと見ている。
特に蘭Xsensのシステムが光学式以上の使い勝手や価格面を武器に今後販売数量を拡大する可能性が高いとし,Xsensを中心とする慣性式のモーションキャプチャシステムは光学式を上回る成長を見込んでいる。
今後,スポーツや医療分野での導入は継続されるとともに,エンターテインメント分野に加えてVR/AR分野へのモーションキャプチャの導入が活発になり,2020年から2025年までのCAGRが12.3%で成長し,2025年のモーションキャプチャシステム世界市場規模(事業者販売金額ベース)は1,204億4,200万円になると予測する。
2025年以降にはエンターテインメント分野等での新しい領域の発展や,モーションキャプチャが新領域分野で新たに活用される可能性が大きいという。新領域分野が中心となってモーションキャプチャが成長していくことで,2030年のモーションキャプチャシステム世界市場は2,173億円と2,000億円を超える規模の市場になると予測している。