大阪大学,分子科学研究所,仏Synchrotron SOLEIL,茨城大学らは,結晶表面の原子構造を制御することにより,トポロジカル表面の電子状態(TSS)が,結晶内部(バルク)の状態から予測されるものとは全く異なる状態を作り出すことができることを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
最初期に発見されたトポロジカル絶縁体(TI)は次世代素子の素材として極めて有望な性質をもっている。これまで,TIの表面電子状態はバルクの電子状態の対称性によってのみ決まってしまっており,結晶表面が変わっても変化しないものと考えられてきた。
研究では,TIの一種であるSmB6の表面を対称性の高い正方形の結晶面[(001)方位]からわずかに傾けて研磨し,超高真空中で清浄化することで新たな表面超構造を作製した。得られた結晶表面の周期構造を観測する電子回折パターンでは,バルクの正方形な結晶面の対称性が保たれていたならば等価になるはずの回折スポットに明暗が生じた。これは表面のわずかな傾斜によって生じた異方性を反映し,正方形の対称性(90°回転や鏡映)が崩れた表面超構造が得られたことを示している。
さらに,得られた表面超構造において,斜めの1方向にだけ明るいフェルミ面を持つトポロジカル表面状態が観測された。これまでに知られていたSmB6(001)のTSSは,結晶構造の対称性を反映して90°回転により元の形と重なるものばかりであり,今回新しく得られた180°回転でのみ重なる結果は微傾斜した表面超構造の作製によって,これまでとは異なるトポロジカル表面状態が作製されたことを示すという。
この結果は,これまで考えられていたように,TSSがバルクの状態を「頑固」に反映するわけではなく,超構造を含む表面原子構造の影響を強く受けて「柔軟」に変化することを示している。過去の計算結果を検討したところ,実はこの結果は過去の理論的な考察と矛盾しないこともわかってきた。
電子状態のトポロジカルな分類は確かにTSSの特長の多くを決定するが,それは形や対称性を厳密に規定したものではなく,例えば「必ず奇数枚のフェルミ面が存在する」ことを予測しているだけというような曖昧さを含んでいた。つまり,ここでフェルミ面が1枚か5枚か,あるいはその形が等方的な円形や正方形か,今回のように1方向に長く伸びる形か,というような細部については実は定まっておらず,表面超構造を含む様々な「制御」の余地が残されていた。
研究グループは,この成果がこの電子状態を利用した低消費電力・高速な次世代素子,さらには量子コンピューターの情報伝達への応用が期待されるものだとしている。