情報通信研究機構(NICT),伊ラクイラ大学,独フラウンホーファー研究所ハインリッヒ・ヘルツ研究所(HHI),豪フィニサー,伊欄仏プリズミアン,米ベル研究所は,15モード多重信号に対応した光スイッチを試作し,世界で初めて実環境下における15モード多重信号の波長ごとの光スイッチング実験に成功した(ニュースリリース)。
増大し続ける通信量に対応するため,新型光ファイバを用いた大容量な空間分割多重通信の研究が進められているが,実際の光ネットワークには,空間多重に対応した伝送技術に加え,光スイッチング技術が不可欠。
これまでNICTは,マルチコア光ファイバと大規模光スイッチを用いた実験に成功しているが,マルチモード光ファイバでは大容量伝送の実証までだった。また,実験室環境では10モード以下の多重信号光スイッチングの報告はあるものの,更なるモード数の拡大や実環境下での実証が課題だった。
今回,研究グループは,実環境下において15モード多重信号のモードごとの伝搬特性を評価し,48.8 km(8周回)までの伝送を実証するとともに,15モード多重信号の波長ごとの光スイッチング実験に世界で初めて成功した。
実験ネットワークは,15モード多重通信用に試作した光スイッチ(市販の波長選択スイッチを複数組み合わせることにより,15モード多重信号に対応),送受信器,伊ラクイラ市内の実環境テストベッドに敷設された一周6.1 kmの標準外径15モード光ファイバから構成した。
光スイッチング実験では,6波長・15モード多重信号(30Tb/s)を生成し,実環境テストベッドを一周した後,光スイッチでモード多重信号の経路を波長ごとに切り替えた。一般的な3つの光スイッチングパターン(全波長の挿入・分岐,全波長の通過,一部波長の通過・挿入・分岐)を評価し,いずれも光スイッチング後にモード多重信号が正しく受信できることを確認した。
モード多重通信は,受信器においてモード間干渉を補償するディジタル信号処理が必要となるものの,標準外径で既存のケーブル技術と互換性があり製造が容易なマルチモード光ファイバを用いるため,拡張性が高く,高密度な大容量ネットワークを安価に導入できる可能性がある。
今回の実環境テストベッドにおけるモード多重信号の光スイッチング実証は,モード多重通信の研究を加速させ,Beyond 5G後の様々な情報通信サービスをサポートするバックボーン通信システムの実現につながる重要な一歩だとする。
研究グループは今後,大容量マルチモード光ファイバ伝送の長距離化や光スイッチング規模の拡大を図り,さらに,マルチコア技術との融合の可能性を追求しながら,将来の大容量光伝送技術の基盤を確立していきたいとしている。