物質・材料研究機構 (NIMS) は,太陽光に対して20%以上の光電変換効率(発電効率)を維持しながら,1,000時間以上の連続発電に耐える耐久性の高いペロブスカイト太陽電池(1cm角)を開発した(ニュースリリース)。
従来の太陽電池よりも製造コストが安く加工しやすい次世代太陽電池として,ペロブスカイト太陽電池が注目されている。しかし,ペロブスカイト太陽電池は水分との反応により劣化しやすく,高い光電変換効率と長期耐久性の両立が課題だった。
一般的なペロブスカイト太陽電池は,ペロブスカイト層が太陽光を吸収して,電子と正孔を発生させ,この電子と正孔は,ペロブスカイト層に隣接する電子輸送層と正孔輸送層へ移動することで電流として取り出される。そのため,各層と界面での電子と正孔のスムーズな移動を保ちつつ,水分子を遮蔽する界面制御が,発電効率と耐久性を両立させる鍵だった。
研究では,①ペロブスカイト層と電子輸送層の界面にフッ素原子を有する(撥水性を有する)ヒドラジン誘導体(5F-PHZ)を導入した。その結果,界面欠陥が最小限に抑えられ,結晶性が向上し,発電ロスが低減した。また,電子輸送層を通じてペロブスカイト層に侵入する水分子が界面で遮断されるため,耐久性が向上した。
②正孔輸送層とペロブスカイト層層(ABX3で記述される結晶構造でA=ホルムアミジニウムイオン(FA+),Cs+,Rb+,B=Pb2+,X=I–のFA0.84Cs0.12Rb0.04PbI3ペロブスカイトを形成した)の界面にホスホン酸誘導体(MeO-2PACz)を導入した。
その結果,酸化ニッケルの欠陥構造をMeO-2PACzが埋めることによって,発電ロスが抑制された。また,酸化ニッケルとペロブスカイト層の直接接触に由来する分解反応を防ぐことができ,結晶性の良好なペロブスカイト層を形成することができた。
以上により,20%以上発電効率を維持しながら,1,000 時間以上の連続発電に耐える耐久性の高いペロブスカイト太陽電池(1cm角)を開発した。この太陽電池は,約100 ℃でプラスチック上に作製できるため,汎用太陽電池の軽量化も可能にする。
研究グループは,この成果を利用して,界面に導入可能な種々の分子をデータベース化し,データ駆動型研究により,界面制御のための分子設計を行なうことによって,さらに高効率で耐久性の高いペロブスカイト太陽電池の研究を進めていくとしている。